発売元:マイクロキャビン
初出:1982年
この作品に触れるにあたっては、必ず最初に前置きが必要である。
1980年、アメリカの新興企業Sierra On-Line*1が発表した『Mystery House』は、アドベンチャーゲーム界に旋風を巻き起こした。
真っ暗な画面にテキストを表示するのみだったアドベンチャーゲームに、グラフィックを導入したのだ。
館を舞台にした宝探しとサスペンス展開は多くのマイコンユーザーを魅了し、『Mystery House』は大ヒット。社名とともに開発者であるケン&ロバータ・ウィリアムズ夫妻の名を一躍アメリカビデオゲーム業界に知らしめた。
しかし売上以上に大きかったのが後続への影響力だ。画面の上部にグラフィック、下部にテキスト。これが以降のアメリカの、いや日本を含む世界中のアドベンチャーゲームでスタンダードとなったのである。
この『Mystery House』とまったく無関係に開発され、タイトルだけ同じくして発売されたのが本邦マイクロキャビンの『ミステリーハウス』だ(便宜上、マイクロキャビン版はカタカナ表記)。
完全に別物であり、移植版ではないのだが、当時誤解する人も少なくなかったと思われる。Sierra On-Lineもこのマイクロキャビン版の存在を把握していたが、どうにも対処のしようがなかったようだ。
『ミステリーハウス』はサスペンス展開を廃し、人間自体が登場しない、純粋な宝探しのみの構成となっている。しかしアイテムがプレイ毎にランダム配置されるなど、ある程度の繰り返しプレイに耐えられる作りが意欲的だ。
また、機種によってグラフィックもマップも異なる。違う機種を持つ友達同士で交換プレイをしたという人もいるだろう。
『ミステリーハウス』は本家同様、その高い完成度により国内で大ヒットを飛ばした。初めてプレイしたアドベンチャーゲームがこれだった、という人は少なくないようだ。このヒットがマイクロキャビンの基盤を作り、以後数々のゲームを世に送り出すことになるが、アドベンチャーゲームの一番の代表作が『ミステリーハウス』ということに異論は少ないだろう。関係者の話によれば、これでビルが建ったという。
なおSierra On-Lineの『Mystery House』も、のちにスタークラフト*2から移植版が発売されたが、こちらは『ミステリーハウス』ほどのヒットはしなかった。
このSierra On-Lineとマイクロキャビンの一連のエピソードは、もちろん今では考えられない性質のものだ。ビデオゲームの権利に対する意識が希薄だった、発展期ならではのエピソードと言える。しかしこうしたこともまた、確かな歴史の一部に違いない。
マイクロキャビンは現在も存続しており、創業半世紀を迎えようとしている。
今は遊技機ソフトウェアの開発が中心になっているが、SNSではかつて世に送り出したゲームのアピールが盛んに行われ、プロジェクトEGG内では懐かしの作品の数々をプレイできる。残念ながら(当然ながら)その中に『ミステリーハウス』はラインナップされていない。