発売元:ポニー
初出:1982年
徐々に発展していくコンピュータゲームの世界には、異業種からの参戦も決して珍しくなかった*1。
そのひとつとして名乗りを上げたのがポニー(現ポニーキャニオン)。音楽や映像関連製品をメインに取り扱っていたが、ポニカというブランドでゲームソフトの販売も手がけるようになったのだ。
その初期作品にしてヒットを飛ばしたのが『スパイ大作戦』である。
『スパイ大作戦』(原題: Mission: Impossible)はアメリカのテレビドラマで、1960年代から70年代にかけて高い人気を博した。日本でも放映されており、このタイトルの知名度は高かった。
これを元にアドベンチャーゲームを作ろうと考えたのが高橋義信氏。のちにPC雑誌『ログイン』の編集長となる、通称「高橋ピョン太」で知られる人物だ。
当時のいきさつについては、下記のインタビュー記事に詳しい。ゲームクリエイターを夢見る若者はゲーム産業が花開いてから絶えることがないが、高橋氏はそんな若者たちの第一世代と言える。
ゲームの内容は、指令を受け取った主人公フェルプスを操作して敵のスパイ本部ビルに潜入し、できるだけ内部を破壊し、機密文書を奪い、無事にビルから脱出するというもの。そのミッションの達成度に応じて最終的にスコアが決定される。
ゲームスタート時にはステータスがランダムで決定し、それに応じて携行する武器・装備を選択しなければならない。機密文書の隠し場所もランダムなので、『ミステリーハウス』以上に繰り返しプレイしやすい作りとなっている。
白眉はカーソルキーあるいはテンキーでの移動を実現していることだ。『ミステリーハウス』では北ならN、東ならEというように方向のコマンドを入力する必要があったが、これはより直感的でわかりやすい。
そして要所においてはYes or No(Yキー or Nキー)で選択させる。各部屋には敵がいるかもしれず、見つかればやるかやられるかの戦いに。緊張感が常にプレイヤーにもたらされる。
黎明期のアドベンチャーゲームといえば画面上へのコマンド入力というイメージがあるが、これに頼らない作品をすでに1982年の時点で実現させていたことは称賛するしかない。
私はこの作品を最近になって実際にプレイした。
ヒットしたというのも頷ける、驚くほどの完成度で面白かった。ゲームオーバーになったらテープのロードからやり直しという作品が当時は多かったが、本作は失敗してもすぐにステータス再設定からのやり直しが可能で、これなら何度でも挑戦しようという気にさせられた。
80年代初頭のレトロアドベンチャーゲームをプレイしてみたい、そんな若い人がいたとしたら、私なら第一にこの『スパイ大作戦』をおすすめするだろう。
ところで本作のパッケージには著作権表示がなく、どうやら非公式の製品であるらしい。
元を辿れば、同じく人気ドラマの『スタートレック』の非公式ゲームが海外では70年代から開発・公開されており、日本でも最新機種が出るたびに誰かの手で行われた。
しかしこうしたことが通用していた時代も終わりを告げ、ゲーム業界は版権物を適切に取り扱うようになっていく。
*1:歴史シミュレーションの光栄(現コーエーテクモ)は元は染料問屋だった。『ドラゴンクエスト』シリーズのエニックス(現スクウェア・エニックス)も、公団住宅の情報誌を発行する出版社「営団社募集サービスセンター」の子会社としてスタートしている。