発売元:ラポート
初出:1983年
戦後から数十年も経つと、日本のエンターテインメント産業は黄金期を迎えた。とりわけ若者向けの漫画アニメ文化は豊かな独自性を持ち、大きく花開いた。
これが1983年頃から、隣接分野であり同じく花開こうとしているビデオゲーム業界にも影響を及ぼすようになった。それまでは様々な作品の非公式なゲーム化がしばしば見られたが、版元からの正式な許諾を得た作品が人気を博すようになったのだ。
1979年から放映され、現在もシリーズが続くロボットアニメの金字塔『機動戦士ガンダム』。初回放送ではさほどの評判にはならなかったが、再放送から人気が加熱。テレビ版を再編集した劇場版三部作は立て続けに大ヒットし、アニメ界における地位を不動のものにした。そんなタイミングで開発され、ラポートから発売されたのが『機動戦士ガンダム1 ガンダム大地に立つ』である。
本作は「ロール・ベンチャーゲーム」を謳っていた。アドベンチャーゲームと、当時まだ国内では浸透していなかったロールプレイングゲームを組み合わせた造語だ。
その実態はどうだったかというと、基本的にはコマンドを入力して進行する通常のアドベンチャーゲームと変わらない(全文日本語ではなく英語なので、年少者には少し厳しかっただろう)。一風変わったジャンル名を打ち出しユーザーの目を惹かせようとする手法は、のちのノベル・アドベンチャーゲームではしばしば見られるケースなのだが、その元祖と言えるかもしれない。
本作最大の特徴は、カセットテープ媒体を活かしたサウンド演出だ。特定のシーンに入るとアニメそのままのキャラクターの台詞や歌が流れる。ビデオゲームのサウンド史上、特筆すべき事柄だろう。
もうひとつの特徴は、シューティングゲームの要素を取り入れたことだ。
動く敵機にカーソルを合わせビームライフルを発射する。相手は攻撃してこず、一発当てるだけでクリア。発射できる回数には限りがあるが、十分な余裕はある――非常に簡素な作りだがリアルタイム要素を導入し、じっくり考えながらコマンド入力だけしていれば良かったプレイヤーに少なからず緊張感をもたらした。
ただ読み進めてストーリーを追うだけのゲームにはしたくない。これは現在もノベル・アドベンチャーゲームの作り手がよく考えることだ。その思いを実現した先駆のひとつと言えるのではないだろうか。
その創意工夫と、当時としては美しい発色のグラフィック。今では数あるガンダムゲームの元祖として、確かに評価できる作品だ。続編として『機動戦士ガンダム2 翔べ!ガンダム』(1984年)が発売されたが、それで終わりになってしまっているのは惜しいところである。