アライコウのノベルゲーム研究所

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国産ノベル・アドベンチャーゲーム200選 第7回『デゼニランド』

『デゼニランド』(ハドソン、PC-8801、1984年)

発売元:ハドソン
初出:1983年

 ハドソンは任天堂初のサードパーティとして知られる企業で、ファミコン向けに多くの良作を提供した。そのファミコン以前はパソコン用ソフトウェアの制作で名を上げていたことも知られている。
 中でも最大級のヒットを飛ばしたのが、コマンド入力型アドベンチャーゲームの『デゼニランド』だ。タイトルはディズニーランドのもじりで(でぜに=出銭の意味もある)、発売当時は東京ディズニーランドが開園し大きな話題になっていた。開発にあたっては実際に現地を取材したという。

 ストーリーは、デゼニランドの建設者がどこかに隠した純金で出来た臼「三月磨臼(みつきまうす)」――何のもじりか説明の必要はないだろう――を探し出すというもの。デゼニランドは5つのアトラクションから成り、お宝の噂を聞きつけて入り込んだ者を誰ひとり帰さなかったという。常に危険と隣り合わせの遊園地で、プレイヤーは知恵を絞って探索せねばならない。

 まず目を見張るのがカセットテープ3本というボリューム。当時これに匹敵するゲームは『惑星メフィウス』くらいだっただろう。全部で114もの画面は、プレイヤーの目を決して飽きさせない。
 高速処理もアピールポイントだ。パッケージには「アドベンチャーもBASICからマシン語の時代へ」と表記されている。くっきりと見やすいグラフィックがスムーズに描画されるその様は、実際にプレイしてみるとなるほど他と一線を画している印象だった。プログラマーの技術力の高さが窺い知れる。

序盤のうちはヒントもあって比較的わかりやすい

 肝心の謎解きはどうかというと、コマンド入力はすべて英語である必要があるが、要求されるのはほとんどが中学校レベル。画面自体に入力すべき単語のヒントが記されている場合もあるし、「LOOK」コマンドでも答えに近いヒントを教えてくれることがある。
 しかしマップが広大な分、プレイヤーは頭を捻る回数も多くなる。詰まりポイントや一発死の危険もあるので気が抜けない。

 そして一部になかなか考えつかず、今でも「デゼニランドといえばこれ」と言われるほどの単語がある。確かにそれまでは中学校レベルばかりだったのに、これは妙に難しい。他の国産アドベンチャーゲームで、この単語が使われた例はほとんどなかったはずだ。

『デゼニランド』は、その単語を当時のアドベンチャーゲームファンに強烈に印象づけた。
 それは客観的に見れば一般的な動詞にすぎない。しかしゲームの謎に密接に関わり、ゲームの代名詞的な単語にまで昇華された。
 ノベル・アドベンチャーゲームの良作には、名台詞や印象的なモノローグが付きものだ。ゲームデザインやストーリーはもちろんだが、テキストを心に刻んでもらうことがこのジャンルのゲームの本懐だ。時にはほんの数文字ばかりのテキストがいつまでも忘れられなくなる。
 謎解きが主眼の当時のアドベンチャーゲームに、そのような思想はほとんどなかっただろう。それでも『デゼニランド』のその単語は、開発者たちに深い考えがなくとも、プレイヤー間に忘れがたいほど浸透した。まさしくATTACHしたのだ。これが言葉の持つ魔力であり、アドベンチャーゲームというジャンルが内包する魅力だ。

 本作は多くの機種で発売され大ヒットしたあと、続編として『デゼニワールド』(1986)も発売された。しかし元ネタが元ネタだけに、二作とも復刻の可能性は薄いのが残念である。