アライコウのノベルゲーム研究所

ゲームライター・アライコウのノベルゲーム研究に関するブログです。

ノベルゲームの構造と演出 画面構造1「全画面表示」

 

 ノベルゲームという語を聞いてまずイメージされるのは、小説の白いページに文字がいっぱいに広がるように、画面全体に文字が表示されるタイプのゲームではないだろうか。
 歴史を紐解いてみると、国産アドベンチャーゲームのはしりである『表参道アドベンチャー』やそれ以前の海外の先行作品がそうであったように、真っ黒な画面いっぱいにテキストを表示し、状況を描写することからこのジャンルはスタートしている。しかしやがてグラフィックを画面の上部に、テキストを下部に表示するタイプの作品が主流となり、全画面表示タイプはいったん歴史の片隅に追いやられた。
 これを復活させ、今日知られるノベルゲームのフォーマットの確立に一役も二役も買ったのが、1992年にチュンソフト(現スパイク・チュンソフト)から発売された『弟切草』だ。

『弟切草』(チュンソフト、SFC、1992年)

 チュンソフトは「サウンドノベル」というジャンルを提唱した。画面全体に表示される背景グラフィックと臨場感あふれるサウンドとともに進行するストーリーは、各所に配置された選択肢とルート分岐により、プレイする毎に多彩に変化した。これを小説さながらに淀みなくプレイヤーに読ませることに成功したのだ。のちに美少女ゲームブランドのLeafが提唱した「ビジュアルノベル」*1の手本となるなど、『弟切草』が後続に与えた影響は計り知れない。

 全画面表示ノベルゲームの特徴は、まさに小説的であることだ。
 メッセージは可能なかぎり削ぎ落とし簡潔に表示すべしという、ビデオゲーム全般に通じる鉄則を必ずしも考慮しなくてもよい。台詞ではなく地の文を中心にすることができる。人物描写や情景描写も「絵を見ればわかる」などと切り捨てずともよい。
『弟切草』が作られたスーパーファミコンは一画面に表示できる文字数がそれほど多くなかったが、以降はPCもコンソールも画面の解像度が高くなっていき、比較的長い文章も表示できるようになった。

BLACK SHEEP TOWN』(BA-KU、PC、2022年)

 ノベルゲームを作ってみたい。
 ではどんなスタイルで作ってみたいのだろうか?
 元々小説を書いていたので、そのスタイルに近い作品にしてみたい――おおいに結構だろう。全画面表示はそんな人を歓迎するフォーマットだ。実際、小説として書かれた作品をそのままノベルゲームとして転用する例が商業作品でもある。

 その小説的文章を活かすために考えることはたくさんあるが、文章のページまたぎには気をつけなければならない。
 小説では誰も気に留めないが、ノベルゲームでは避ける必要がある。これを怠ると、せっかく良質な文章でもひどくだらしなく見えてしまう。しかし構造上の制限があるとすればその一点くらいのものだ(そしてこれも絶対ではない。あえてページまたぎをする演出もあるのだが、これはまた別の機会に紹介したい)。
 文章を自由にレイアウトできることも全画面表示を採用するメリットのひとつ。10行以上も画面に広がる濃密な文章の連なりを見せてもいいし、あるシーンでは1行のみ画面中央にスパッと切れ味鋭く見せてもいい。1~3行程度の文章をページ毎に固定位置に見せていくタイプの作品にはない、コントロールの楽しさがある。

 そんな全画面表示ノベルゲームだが、決して主流のジャンルではない。人気作・話題作が出づらいということだ。多くの人がキャラクターグラフィックがよく見えるタイプのノベルゲームを望んでいることは否定できない。
 しかしそれでも、小説の持つダイナミズムをほぼそのまま味わえるこの形式の魅力は、今後も決して色褪せないだろう。売れ筋など狙わない、小説と同じようなスタイルで書きたいように書きたい。そんな気骨にあふれているならぜひ果敢に挑戦してほしい。

© Spike Chunsoft
© BA-KU

*1:『雫』(1996年)、『痕』(1996年)、『To Heart』(1997年)がLeafビジュアルノベル三部作と呼ばれ、その後の美少女ゲーム業界に決定的な流れを作った。