発売元:ナムコ
初出:1987年
1987年はファミコンのアドベンチャーゲームが本格的に花開いた年だった。その先陣を切ったのが同年4月2日に発売された、ナムコ(現・バンダイナムコエンターテインメント)の『さんまの名探偵』である。
関西お笑い界のドン・吉本孝行が主催したパーティーで人気落語家の桂文珍が殺された。プレイヤーであるあなたは名探偵の明石家さんまの相棒として捜査に乗り出すことに……。吉本興業の実在の芸人を多数登場させた推理アドベンチャーで、そのコミカルさはゲームスタート直後に表れる。文字のコマンドの羅列ではなく、それらをグラフィカルにしたアイコンがプレイヤーの目に飛び込むのだ。
アイコンによるコマンド自体はすでにいくつかの先行作品で登場していたが、本作のそれはきわめて視認性が高くユニークだ。拳のアイコンは「たたく」ならぬ「どつく」で、関西のお笑いらしさにあふれている。そもそも全編を通して関西弁で進行するアドベンチャーゲーム、それ自体が発明的と言えるだろう。
しかしストーリーはコミカル一辺倒ではなく、驚くほど真面目な作りだ。登場人物たちの大半が腹に一物を抱えており、殺人事件とは別の陰謀も隠されている。粘り強い聞き込みでそれらを解き明かしていく過程は本格サスペンスと言ってなんら差し支えはない。
通常の捜査画面とは別にマップ画面があることも特徴のひとつ。それもフラグが立つと行動範囲が拡張するというタイプのマップだ。
これがプレイヤーにとっては進行度の把握に役立ち、同時に大きな達成感を得る効果をもたらしている。従来のアドベンチャーゲームでは単にテキストで新たな行き先が示されるだけだったが、行ける場所が目に見えて広がる視覚効果は大きく、私が少年時代にプレイしていた時もその瞬間はおおいに喜んだものだった。
そして数種類のミニゲームが用意されている。アドベンチャーパートとは別のミニゲームを1つくらい用意している例はそれまでも少なからずあったが、回避アクション、ボタン連打のボートレース、シューティング、追いかけっこなど、これほどバラエティ豊かなミニゲームを一度に揃えた作品はなかった。
1960年代のエレメカから始まり、アーケードゲームで多数の名作を送り出し、それらのファミコン移植でも圧倒的支持を得てきたナムコ。『さんまの名探偵』は彼らにとって初のアドベンチャーゲームだったが、パイオニアの実力を遺憾なく発揮していたのだ。
近年になってもオマージュ作が発売されるなど、本作がアドベンチャーゲーム界にもたらした影響は小さくないものだった。しかし吉本興業には許可を得たものの、肝心のさんま氏をはじめとする芸人たちには無許可で発売され、のちに問題となったことが知られている。そのために今後も復刻はまず望めないのが残念なところだ。
© Bandai Namco Entertainment Inc.