発売元:任天堂
初出:1987年
マリオ、ドンキーコング、ゼルダ、ポケモン、スマブラ――任天堂が送り出すゲームはアクションやRPGというイメージが今も昔も強いだろう。
そのイメージを覆し、アドベンチャーゲームでも勝負できるのだと示した最初の作品が、1987年にファミコンディスクシステムで発売された『ふぁみこんむかし話 新・鬼ヶ島』だ。
川を流れてきたお椀から生まれた男の子と、輝く竹から生まれた女の子が、育ての親であるおじいさんとおばあさんを救うために旅立つという、桃太郎など日本古来の昔話をモチーフにしたアドベンチャーゲーム。
特徴はまず、ディスクカード2枚組であること。容量の問題から複数枚のディスクで提供されるゲームはPCでは見慣れた光景だった。しかし同じゲームを、発売日を分けて前後編形式で提供したのはコンソールでは初めてで、ボリューム増加の上で効果的な取り組みだった*1。前編は9月4日、後編は9月30日と、それほど間は空いていない。「続きはどうなるんだろう?」とドキドキする少年少女たちをあまり待たせることなく期待に応えていたのだ(もちろん前後編まとめて購入する家庭も多かっただろう)。
メッセージの表示形式も他とは違う特徴を持っていた。詳細は別項に譲るが、昔話風の雰囲気をとてもよく表している。
同時期のアドベンチャーゲームは試行錯誤させる時間を長くすることでプレイ時間を長くさせる構造のものが多かったが、本作は年少者でもそこまでの苦労はなく読み進められる難易度で、全9章からなる物語は前述の通りボリューム十分。『ジーザス』が切り開いた低難易度のストーリー重視作品、その系譜に連なるものだ。ディスクシステムの大容量はBGMにも活かされており総数20曲以上、各シーンを感情豊かに彩っている。
「ひとかえる」コマンドもユニークだ。プレイヤーキャラを男の子と女の子で適宜切り替えて攻略するのだが、のちにマルチサイトやザッピングと呼ばれるようになるシステムの原型とも考えられるだろう。
元気な男の子と聡明な女の子が繰り広げる壮大な冒険。確かに全体的に年少者向けではあるが、その枠組みには留まらない、出会いあり別れありの大人をも唸らせる感動がある。任天堂と共同開発したパックスソフトニカの橋下友茂氏は次のように語る。
いろいろなゲームを作ってきたのですが、“自分が関わったゲームで泣いた”というのは後にも先にもあれだけですね。
(中略)
もちろん達成感もありましたが、いちばんはシナリオに感動したんですよね。『ふぁみこんむかし話 新・鬼ヶ島』は感情移入がすごくできる物語になっていて、最後に仲間が別れていくシーンがあるのですが、それまで苦労してみんなで戦ってきた仲間がひとりひとり別れていくんです。いちプレイヤーとしてその物語にすごく感動させられましたね。
本作はディスクシステムでも指折りの高評価を得て、1989年には同コンセプトの『ふぁみこんむかし話 遊遊記』が発売された。1997年には外伝作品の『平成 新・鬼ヶ島』*2が発売され、その後も本編がゲームボーイアドバンスに移植されたり、Wiiやニンテンドー3DSのバーチャルコンソールで配信されていたが、2024年にはNintendo Switch Onlineに登場した。同サービス初のアドベンチャーゲームで、まさに待望と言えよう。
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