アライコウのノベルゲーム研究所

ゲームライター・アライコウのノベルゲーム研究に関するブログです。

ノベルゲームの構造と演出 進行構造1「テキスト入力」

 

「GET LAMP」
 ノベル・アドベンチャーゲームはこういった動詞+名詞のコマンド入力型*1から始まった。日本でも『表参道アドベンチャー』を皮切りに、いくつものコマンド入力型アドベンチャーが世に送り出されている。

『宝島』(新紀元社、PC-8801、1983年)

 この場面ではどのコマンドが有効なのか? 頭を捻って何度も試行錯誤し、ついに正解を導き出せた時の喜びはひとしおだ。もちろん開発者たちも簡単にはクリアさせまいと工夫を重ねる。インターネットなどなく攻略情報に容易にアクセスできなかった当時、1つの作品をクリアするのに数ヶ月、場合によっては半年かかるというのも珍しくはなかったらしい。
 このスタイルはほどなく『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ』が広めたコマンド選択型に取って代わられる。単語探しをすることなくストーリーを追える、難易度を抑えたアドベンチャーゲームが望まれるようになったのだ。
 しかしテキストを入力するというエッセンスは別の形で活かされていく。代表的な活用法が名前入力だ。

『かまいたちの夜』(チュンソフト、SFC、1994年)

 とりわけ殺人事件の真犯人の名前を入力するシーンは、ミステリー作品での最大の見せ場。ただクライマックスを予感させるだけではなく、これまでと違う操作を要求されることにプレイヤーは大きな刺激を受けるのである。この活用法は様々な応用が利く。名前以外にも様々なキーワードを入力させることで、ここぞという時の盛り上がりを演出してくれるだろう。

 ところで本来のコマンド入力型アドベンチャーゲームは、もはや絶滅してしまったのだろうか? そのようなことはない。
 インディーゲームのひとつのジャンルとして、特に海外では今でも多くのゲームが生み出されている。The Interactive Fiction CompetitionやSpring Thingといったコンテストが毎年盛況を博しているほどだ(コマンド入力型のみのコンテストではない)。英語がわかるなら積極的に覗いてみると楽しいだろう。

The Interactive Fiction Competition

Spring Thing

 そして近年のAI技術の発展が、このジャンルに大きな革新をもたらそうとしている。

SQUARE ENIX AI Tech Preview: THE PORTOPIA SERIAL MURDER CASE
(スクウェア・エニックス、PC、2023年)

『SQUARE ENIX AI Tech Preview: THE PORTOPIA SERIAL MURDER CASE』は『ポートピア連続殺人事件』を元にした、AI技術のひとつである「自然言語処理」や「自然言語理解」などを学習・体験するゲーム。「AI Tech Preview」とあるように、現在のAI技術でどの程度のことが可能なのかを提示したデモンストレーション的なソフトウェアであり、ゲームとして細かく作り込むことを最終的な目的としているわけではないが、コマンド入力型の初期代表作である『ポートピア』が40年の歳月を経て新たに生まれ変わった(もしくは原点回帰した)ことには、往年のファンは感動を禁じ得なかっただろう。

jp.ign.com

 そしてプレイヤーが入力したテキストを、AIが「なんとなく判定する」ことにより進行させるユニークなアドベンチャーゲームも登場している。

Inverted Angel』(SCIKA、PC、2024年)

『Inverted Angel』は主人公の部屋を訪れた謎の少女と対話していくゲーム。随所でテキスト入力を求められるのだが、想定されている解答と部分的に合っている、あるいは多少ずれていてもプレイヤーの意志通りと判断されれば先を促してくれる。「自然言語処理によってプレイヤーが入力した文章と用意されたシナリオパターンの類似度を判定する」(ストア説明文より)という高度な処理が行われているのだ。アドベンチャーゲーム古来の手法に新風を吹き込んだと評価できるだろう。

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*1:この形式は特に、ジャンル発祥当時から呼び慣わされていたインタラクティブ・フィクション(Interactive Fiction)という語を当てはめることが、現在でも海外では一般的。パーサーゲームとも。