アライコウのノベルゲーム研究所

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『浄火の紋章』レビュー:虚淵玄が唯一作った同人ノベルゲーム

『浄火の紋章』(EERGED、PC、2003年)

 

 本記事は2017年8月に公開していたブログ記事の、微調整の上での再掲となる。
 シナリオを手がけたのは、今や本邦を代表するクリエイターともなった虚淵玄氏。
 キャリアの初期にはこんな作品も作っていたのかと驚かれるかもしれない。

 


 

 2003年、サークルEERGEDがリリースした『浄火の紋章』。オークションで高いお金を払ってでも手に入れたい……私がそう思い、実際に実行した数少ない同人ノベルゲームだ。帯のキャッチコピーにはこうある。

「男絵ばかりモテるエロゲ原画師と戦闘ばかりウケるエロゲ脚本家がいま熱き想いをガン=カタに託す!」

 ニトロプラスの中央東口氏(現在フリー)と虚淵玄氏である。『吸血殲鬼ヴェドゴニア』『鬼哭街』などで、異色のアダルトゲームメーカーとして台頭していた頃だ。そんな熱きふたりが出会ったのがSFアクション映画『リベリオン』(原題:Equilibrium)。そして「ガン=カタ」という架空の戦闘術だった。

圧巻の銃撃戦描写が繰り広げられる

 全人類の平和のためにすべての人間が感情の抑制を義務化されている、荒廃的な世界。主人公ベルナードは特殊戦闘団グラマトン・クラリックの一員として、感情抑制を拒む反乱者を処刑する任務を負っている。彼らの操る戦闘術はガン=カタと呼ばれていた――と、あらすじは簡潔にして明瞭。
 ガン=カタがどんな戦闘術かは、Wikipediaを見てもらえばいいだろう。ああ、いかにもウロブチが好きそうだなという感じだ。

 個性に優れた書き手の文章はしばしば「○○節」と称されるが、本作にも虚淵節が満載。銃器名やその機能を散りばめ、登場人物をクールに躍動させている。序盤から展開される相棒ティレリとの反乱者殲滅作戦は、その圧倒的筆力を土台として息を飲む美しさを提供している。
 作戦終了間際、感情抑制されているはずのティレリが笑いを浮かべているのをベルナードは見てしまい、物語に一気に危険な香りが流れ込む。不審を抱くベルナードは間もなくティレリに囚われ監禁されるのだが、このときの狼狽、混乱ぶりが印象的だ。そしてティレリの真の目的とは……。それを知った途端、読んでいるこちらも何か熱い血が込み上げてくる。

 凄まじい戦闘だけでなく、人の心の脆さも見事に描写している。プレイ時間1時間程度の短編だが、濃厚なシナリオだった。虚淵氏のファンならば高い出費を覚悟してでも入手する価値はあるだろう。

© 中央東口 / 虚淵玄

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