
※画像はPCエンジン版(1992年)
発売元:コナミ
初出:1988年
『メタルギア』シリーズや『DEATH STRANDING』で世界的に知られるゲームクリエイター・小島秀夫監督の初期の代表作。1988年にPC-8800シリーズ向けに発売され、この時は未完であったが、1992年にPCエンジンSUPER CD-ROM²向けに「CD-ROMantic」と銘打ちリリースし完結させた。本稿ではこのPCエンジン版を元に紹介していく。


人間を殺しその人物と入れ替わる――その目的も正体も一切不明のアンドロイド「スナッチャー」が跋扈する近未来。2042年、記憶喪失である主人公ギリアン・シードはスナッチャーを追う特殊警察JUNKERに身を置くことを決意し、退廃の街ネオ・コウベ・シティへと向かった……。
本作の最大の特徴は『ジーザス』の作風をより深化させたような映画的演出だ。単に映画的な構図やカットを採用したのみならず、オープニングで全画面の夜景をバックにクレジットを流したり、PC-88版ではテキスト表示のみだったところ、PCエンジン版では声優のボイスのみで進行するシーンも多々用意している。小島監督は映画に造詣が深いことでも知られているが、それが色濃く表れた最初の作品であり、直接的な影響を受けたのは『ブレードランナー』*1だと公言している。

基本はコマンド選択型だが、ただ読み進めるだけにしないのが小島流アドベンチャーゲームだった。文字(数字)入力などは他でもしばしば見られたが、ミステリー作品の醍醐味であるモンタージュ作成を導入していたのには驚く(これをビデオゲームに導入した初期の事例と考えられる)。随所に本筋となんら関係ない寄り道、小ネタが散りばめられており、それらを探す楽しみもある。またスナッチャーとの戦闘シーンでは射撃モードに移行し、緊迫感を高めている。この射撃モードはJUNKER本部の射撃ルームで好きなだけ訓練できるようにもなっている。
リニア進行型のデジタルコミックにしなかった理由も小島監督は明確に述べている。ゲームのストーリーとはあくまでもプレイヤー自身が進める能動的なものであり、あるポイントで留まっていたければそれで一向にかまわない、という考えによるものだ。
未知の怪物を相手に常に後手に回らざるを得ないギリアン。彼と同じく記憶喪失の妻ジェミー。犠牲者が次々に発生する中で乱入する謎の賞金稼ぎ。やがて疑惑はまさかのJUNKER本部へと向けられる――その迫真のストーリーはまさに映画的なダイナミズムに満ちており、他のアドベンチャーゲームとは一線を画していた。
そしてクライマックスはノンストップ、声優のボイスのみで30分以上もの会話劇が展開される。ゲームハードといかに向き合いその性能を駆使するかは、いつの時代もゲームクリエイターの腕の見せ所である。本作は小島監督の作家性と大容量のCD-ROMとが、もっとも幸福に噛み合ったのだ。
サイバーパンクな世界観を持つアドベンチャーゲームの、本邦初のヒット作と言ってもいいだろう。PC88版の時点で人気が高かったが、PCエンジン版でもジャンルを超えて同機種トップクラスの評価を得た。2020年発売の復刻機PCエンジンminiでは、純粋なアドベンチャーゲームとしては唯一収録されたタイトルである*2。
そして小島監督は1994年、同じ方向性にしてさらに進化させたアドベンチャーゲーム『ポリスノーツ』を世に送り出し、これも絶賛を得ることになる。両作とも彼の作風を堪能するのに欠かせないだろう。
【参考文献】
月刊PCエンジン特別編集 スナッチャー公式ガイドブック(小学館、1992年)
© Konami Digital Entertainment Co., Ltd.