アライコウのノベルゲーム研究所

ゲームライター・アライコウのノベルゲーム研究に関するブログです。

国産ノベル・アドベンチャーゲーム200選 第30回『ノスタルジア1907』

『ノスタルジア1907』(タケル、1991年)
※画像はメガCD版(1991年)

発売元:タケル / シュールド・ウェーブ
初出:1991年

 タケル社のブランドであるシュールド・ウェーブが制作した『ノスタルジア1907』は、1991年4月にまずX68000用で発売され、その後メガCD、PC-9801、FM TOWNSの3機種で発売された。
 決してヒット作とは言えず、有名でもないだろう。本連載で取り上げる中でもかなりマイナーな部類だと思われる。しかし令和の世から見ても唯一無二の個性があると感じさせるため選出した。シナリオ・ゲームデザインを手がけたのはアクションゲーム『ストライダー飛竜』等で知られる四井浩一氏だ。

 1907年、アメリカの豪華客船ノスタルジア号はイギリスへ向けて北大西洋を進んでいた。その最中、恐ろしい爆破テロが起こる。「ロシアの霧を探しだせ」――犯人からの奇怪な脅迫文。爆弾が日本製と考えられることから疑われた日本人のヤマダカスケは、自らの無実の証明のため、犯人と「ロシアの霧」を見つけるために動かざるを得ず……。

 本作にはいくつものユニークな工夫がある。まずはノスタルジアというタイトルにふさわしいセピア調のグラフィック。回想シーンでそうした色調にすることはあっても、オープニングからエンディングまでというのはまずなかっただろう。
 第二に、独特のセンスによる軽妙かつ荒っぽい会話劇。アドベンチャーゲームのテキストは今も昔も癖がないのが良しとされる傾向にあるが、20世紀初頭らしい時として差別意識も剥き出しな粗野な言動が、罪深いことに稀なる勢いを与えている。現代ではこうした作り方はおそらく困難だ。また、地の文は用いないが「アイキャス」という独立したウィンドウ内で主観キャラの心の声を表示し、会話のリズムを損なうことなく見せていく。

尋問パート

 被疑者尋問パートでは、方向キーでカスケの姿勢を変更すると、被疑者への態度と台詞がそれにふさわしいものに変わる。テキストだけによらない選択肢、類似のシステムは『中山美穂のトキメキハイスクール』などにもあったが、より面白く進化している。さらにこの時、曲調まで変化する。今で言うインタラクティブ・ミュージックの一種とも分類できそうだ(メガCD版では残念ながらこの曲調変化はオミットされている)。

 ハイライトは爆弾解除パート。単体でも十分なゲーム性があるギミックだが、極限の緊張感をプレイヤーに突きつけられるため、『ポリスノーツ』(コナミ、1994年)や『シロナガス島への帰還』(旅の道、2018年)など、ミステリー・サスペンス系のノベル・アドベンチャーゲームではしばしば採用されているものだ。

爆弾解除パート

 爆弾解除パートは2つあり、ラストで失敗すれば容赦なくゲームオーバーになるのだが、この際になんとセーブデータも消去されてしまう。この緊迫感は尋常ではなく、当時だから許された仕組みだろう。なおメガCD版ではそもそもセーブ機能がなく、エピソード単位で好きなシーンからプレイ可能なため、この緊迫感はない。どちらがいいかは意見の分かれるところだ。

 一篇のクラシカルな映画を鑑賞した気にもさせられる、テキスト、シナリオ、アート、ゲームデザインと何拍子も揃った、エッジの効いた隠れた良作。
 本作は発売元のタケルが1994年に倒産したため、実機を入手する以外のプレイ方法は長らくなかったが、2023年発売の復刻機X68000 Zの『ゲームコレクション Vol.1』に収録された。著作件法第67条の2第1項の規定に基づく申請を行い、同項の適用を受けて作成されたものだ。権利所有者が不明になっているビデオゲームは数多いが、同様のケースが増えることを願うばかりである。