アライコウのノベルゲーム研究所

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国産ノベル・アドベンチャーゲーム200選 第37回『ワンダープロジェクトJ』シリーズ

ワンダープロジェクトJ 機械の少年ピーノ』(エニックス、SFC、1994年)

発売元:エニックス
初出:1994年

 アドベンチャーゲームは元来、コンピュータとのコミュニケーションという側面があった。こちらの入力するテキストに対し、コンピュータも何かしらの反応を示す。黎明期のゲームは多くの場合「意味がわかりません」などと素っ気ない反応を返してきたものだが、何か新しい応答をしてくれるたびにプレイヤーは嬉しさを覚えたのだ(所詮はそれもプログラムされた文字列だとしても)。
 やがて画一的なコマンド選択型が主流になり、さらに『弟切草』に端を発するノベルゲームブームが生まれた。読み物としてのアドベンチャーゲームが勢力を伸ばしていたのだが、そんな中でコミュニケーションの面白さの再発見を試みる『ワンダープロジェクトJ 機械の少年ピーノ』が登場した。公式のジャンル名は「コミュニケーションアドベンチャー」だ。

プレイヤーの助けを借りてピーノを育てる

 人間と機械人間の「ギジン」が仲良く暮らしているコルロ島。しかしやがて両者は対立し始めた。ジェペット博士はこの状況を解決するべく、双方の橋渡しとなる新型のギジン4649型「ピーノ」を製作する。ところがその完成の日、博士は無実の罪で城の兵士に連れ去られてしまい……。
 ユニークポイントは、ゲーム上のキャラクターが画面を見ているプレイヤーに呼びかける作りになっていること。妖精型インターフェイスロボ「ティンカー」を通じて、博士が残したピーノを成長させていくことがプレイヤーの目的となる。

 ゲームデザインを務めた米田喬氏によれば、アイディアの源泉は発売から8年も前の、犬を調教するPCゲームだったという。アイテムの使い方を繰り返し覚えさせ、体や技術を鍛えてあげて、上手くやれたら褒めてやる。ピーノが思い通りに行動してくれないこともしょっちゅうで、間違ったことをしてしまったら注意する。そうしてステータスを調整し、準備万端となったらイベントに臨む……当時発展していた『ときめきメモリアル』に代表される育成シミュレーションの要素を備えているのだが、あくまでも本質はコミュニケーション。ポイント&クリックによって指示する形がピーノとの綿密な触れ合いを演出する。
 このゲームデザインを強化するのが豊富なキャラクターアニメーション。縦横無尽に駆け回り喜怒哀楽を見せるピーノの姿は愛嬌たっぷり。スーパーファミコン全盛期の、ドットアートのひとつの達成と言っても過言ではないクオリティだ。チュンソフトのサウンドノベルによってテキストメインの新たな流行が作られようとしていた最中に、グラフィックの躍動感を前面に押し出したアドベンチャーゲームを世に問うたのは意欲的と言える。

ピーノに期待するサブキャラクターたち

 人間と機械の衝突というテーマは古くからあるが、フィクションに追いつく勢いで発達してきたAIに対する暴言や虐待が、今や世界的な問題になっていることが広く知られるようになった。人間とギジンの不幸な対立を軸に据えた本作のストーリーは、この令和にも体験する価値があると感じる。
 差別が横行する中、ギジンであることを隠しながら人間と仲良く交流しようとするピーノはいじらしく、実の親のように応援せずにはいられない。彼を支えようとするサブキャラクターの多さも救いになっている。
 ギジンを激しく差別する宰相メッサラの思惑とは。そしてピーノに組み込まれた回路「J」とはいったい何なのか。すべてが淀みなく収束するエンディングは非常に美しく、いつの時代にも通用するであろう普遍的な輝きがあった。

 1996年には直接的な続編の『ワンダープロジェクトJ2 コルロの森のジョゼット』がNINTENDO 64用向けに発売され、ゲーム性とビジュアル、おしゃべりのバリエーション、そして前作の弱点だった自由度が増し、さらにパワーアップしている。
 ドラクエに続くエニックスのオリジナルシリーズに育てたいという展望もあったようで、大きなセールスに恵まれなかったためそれは叶わなかったものの、確かなクオリティとオリジナリティで根強いファンを生んだ。復刻を望む声が少なくないというのも納得だ。

【参考文献】
『ワンダープロジェクトJ 機械の少年ピーノ 公式ガイドブック』(エニックス、1995年)
『ワンダープロジェクトJ2 コルロの森のジョゼット ファンブック』(宝島社、1996年)

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