アライコウのノベルゲーム研究所

ゲームライター・アライコウのノベルゲーム研究に関するブログです。

国産ノベル・アドベンチャーゲーム200選 第38回『学校であった怖い話』

『学校であった怖い話』(バンプレスト、SFC、1995年)

発売元:バンプレスト
初出:1995年

弟切草』『かまいたちの夜』が築き上げたサウンドノベルという新しいジャンルに、他社が追随するのは当然の流れであった。その中でも出色のクオリティを誇ったのがバンプレストの『学校であった怖い話』だ。

 新聞部の企画で学校の七不思議の特集をすることになった。聞き手に選ばれた新聞部員の主人公のもとに、部長が集めた語り部たちが集合する。しかし語り部は六人しか現れない。まだ見ぬ七人目を待ちながらひとまずは取材を始めることになったのだが……。
 脚本・監督を務めたのは『ラストハルマゲドン』『BURAI』『ONI』シリーズなどPC、コンソール問わず多彩な作品を手がけてきたマルチクリエイター飯島健男(現:飯島多紀哉)氏。学校の怪談というテーマはチュンソフトのサウンドノベルと比較すればありふれた題材だったが、それだけに多くの少年少女に身近な怖さを与える作品になったことがまずは指摘できるだろう。

語り部を選択する

 語り部となる六人の話の順番を自由に選択できるというのが第一の特徴。通常のノベルゲームは分岐はあれど基本的にノンストップで進むところ、本作は1周につき全七話構成で、単純計算で四十二話ものバリエーションが生まれる。その四十二話の中で選択肢による多数の分岐が生じるため、それに倍するパターンの怪談が目の前に立ち上るのだ。
 いかに周回を飽きさせないかが『弟切草』が提示したノベルゲームの課題と言えたが、これをきわめて理想的な形で早期に解決しているのである。特定の手順を経ないと出現しない隠しシナリオもあり、かなりの分量を誇る。すべてを見るとなると『かまいたちの夜』以上の難易度となるだろう。

様々な顔を見せる語り部たち

 そして恐ろしいのは怪談そのものではなく、六人の語り部たちだ。いつもうつむいて陰気な男、やたらトイレにこだわりのある太っちょ、理解不能な言動ばかりの先輩、ミステリアスな美人だが近寄りがたい女など、六人ともすべてが個性的なキャラ付けをされている。
 背景もキャラクターグラフィックも実写であることが第二の特徴だが、スーパーファミコンの制限ある描画機能が、ザラついた実写画像の不気味さを際立たせている。縦書きのテキスト表示で、画面左にキャラクターグラフィックを配置する――実際の画像を見ると、語り部が常に主人公に、ひいてはプレイヤーに語りかけている構図になっているのがわかるだろう。画面の大半を占める彼らの圧迫感もまた、恐怖の一因になっている。
 ストーリーはキャラクターから生まれる、一番怖いのは人間である――ホラーノベルゲームでそれらの原則に基づいた作品は、意外にも本作が最初期のものであるかもしれない。

 無数の選択肢が織り成すパラレルワールドは、まさにテキストの迷路となってプレイヤーを幻惑していき、コアなファンを多数生みだした。1996年にはプレイステーション向けにリメイクした『学校であった怖い話 S』がリリースされている。
 以降しばらく、このシリーズに目立った動きはなかった。飯島氏は一時期、日本のビデオゲーム業界を離れていたが、2007年に同人ノベルゲーム『アパシー 学校であった怖い話』*1をリリースし、鮮烈の復活を遂げる。私を含む往年のファンたちは驚愕したものだ。
 それから15年以上、舞台が再設定されたアパシーシリーズを商業とインディーの双方で精力的に発表し続けている。私も一時期、いくつかの作品にサブシナリオライターとして参加していたのだが、よい思い出である。

© BANDAI SPIRITS

*1:1995年に出版された小説版を選択肢なしのノベルゲームとして構築したもの。