
※画像はNintendo Switch版『クロックタワー・リワインド』(サン電子、2024年)
発売元:ヒューマン
初出:1995年
振り返ってみれば意外にも、ホラーアドベンチャーの枠組みにあるゲームは1990年代まで例が少なかった。『ファミコン探偵倶楽部』シリーズなどはホラー要素を内在するものの、あくまで本筋はミステリー。ホラーアドベンチャーそのものと呼べるのは有名SF映画に影響されている『ジーザス』などがあるが、特に著名となったものは多くない。
ヒット作が出づらかった理由のひとつは、当時のマシンのグラフィックとサウンド機能の限界ゆえだろう。プレイヤーを怖がらせる手段は限られており、商業的にも企画するのは難しかった。やがてスーパーファミコン時代に入ると『弟切草』や『学校であった怖い話』がホラーノベルゲームの流れを作り出すことに成功したが、一方でテキストと静止画ではなく、迫り来る怪物というホラー本来の魅力を突きつける作品が登場する。それが『クロックタワー』だ。
グラニッド孤児院で暮らしていた少女ジェニファーは、3人の友人とともに山間に建てられたバロウズ家の屋敷に引き取られることになった。しかし屋敷に到着しても主人は現れず、引率の教師メアリーも姿を消す。様子を見に行ったジェニファーだったが、背後で悲鳴が響き渡った……。
ジェニファーをポイント&クリックで移動させて各所を探索するシステムで、ジャンルはまったく異なるが『ワンダープロジェクトJ 機械の少年ピーノ』と近い。

シーンの多くでBGMが流れないのが本作の特色のひとつ。広い屋敷の中、ジェニファーの足音だけが静かに響き渡る。
そしてショッキングな効果音とともに出現する殺人鬼・シザーマン。友人を無残に殺し、ジェニファーをもその巨大なハサミで手にかけようとする。この怪物が出現している間、恐怖のBGMは決して鳴り止まず、どこかに隠れるかしてやり過ごさなくてはならない。シャキンシャキンと長大な刃が奏でる冷たい音が、プレイヤーの緊迫感にさらなる拍車をかけていく。恐怖の下準備として無音を配置するのがホラーの常道とはいえ、ビデオゲームでここまで効果的なのはそうなかったのではないか。

非力なジェニファーはほとんどシザーマンを撃退する術を持たず、ひたすら逃げなければならない。走り回ると体力も低下してしまう。さらに十字キーでの直接操作ではなくポイント&クリックの微妙にもどかしい操作性がプレイヤーの焦りを増幅させる仕組みとなっている。私も初プレイ時、何度もあっさりとゲームオーバーになってしまった。
他にも複数の敵や超常現象が発生するのだが、神出鬼没のシザーマンのインパクトはあまりにも大きい。不器用に命がけで逃げる主人公を三人称視点で鑑賞する。そして彼女に指示するプレイヤー自らも「違うそうじゃない!」とハラハラする――まさにホラー映画の構造をビデオゲームに落とし込んでいるのだ。
探索型アドベンチャーゲームとアクションゲームをミックスした斬新なシステムに加えてシザーマンという抜群の殺人鬼を発明した本作は、ジャパニーズホラーゲームの代表作のひとつとも数えられるようになった。多くの機種に移植された他、『クロックタワー2』(1996年)、『クロックタワーゴーストヘッド』(1998年)、『クロックタワー3』(2002年)と立て続けにシリーズが発売されている。
以後大きな動きはなかったが、2024年に追加コンテンツを搭載した『クロックタワー・リワインド』が全世界に向けて発売された。新たに付与された惹句は「16ビットの悪夢」である。
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