
本記事は2017年8月に公開していたブログ記事の、微調整の上での再掲となる。
現在は商業ブランドとして活躍するクリエイターたちの同人第一作。
その鮮烈なデビューは今でも強く印象に残っている。
商業進出――2000年代におけるアマチュアクリエイターにとってのその夢は、スマホやSteam市場が確立されている今よりもずっと強いもので、多くの作り手が憧れていた(無論私もそのひとりだった)。
同人ノベル・アドベンチャーゲームにおいては『月姫』のTYPE-MOON、そして『ひぐらしのなく頃に』の竜騎士07氏が両巨頭として比類なき輝きを放っていたが、それからしばらくの後、ひとつの現代サスペンス作品が世に放たれた。
サークルれいんどっぐの『僕はキミだけを見つめる』。これをプレイした時、彼らは間違いなく商業で活躍できる可能性があると信じられたし、それは現実のものとなったのである。

主人公の佐原拓実は裏社会にも恐れられる少年ギャンググループ「サーベルタイガー」のリーダーとして都内を席巻していたが、中国マフィアに仲間を殺され、グループは瓦解。ある日ホームレスに身をやつしていた彼の元に、歌姫・風早永遠のボディーガード依頼が舞い込む。彼女を狙っている者こそ親友の仇である殺し屋だった。利害の一致を見た拓実は復讐のため、永遠の盾になることを承諾する……。
本作の第一の魅力は、非現実要素のない純粋な現代を舞台にしたこと。当時の同人ノベルゲームは伝奇バトルやSF、ファンタジーが多かっただけに、逆に新鮮だった。恋愛ものを除けば、他にこうした作品はあまりなかったのだ。
そして永遠の圧倒的ヒロイン性。ベールに包まれた、美しくミステリアスな歌姫。けれどプライベートではごく普通の女の子……同じ設定でこれほど上手く書ける人はそうはいないと思わせた。

伏線の回収が見事で、永遠に脅迫状を送りつけた殺し屋の意外な正体、誰も思い出さないようなこれまた意外なキャラの関わり、そしてどんでん返し。中盤からは中弛みがほとんどなく、 緊張感あふれるシナリオを作り上げている。一般的な知識ではない暴力団や中国マフィアといった小道具もちゃんと取材したようで、プロ(?)から見たらまた突っ込みどころはあるのかもしれないが、違和感はなかった。
細部を見れば欠点はあるにせよ、それを補ってあまりある長所に満ちている(同人作品ではこれが大事であることは論を俟たない)。永遠の出生の秘密、マフィアとの対決、一匹狼だった主人公が築く仲間たちとの絆。これらが綿密に描写され、特にラストシーンの感動は同人ノベルゲーム史上に残るものだと今でも強く思う。
本作は2011年、ホープムーン社より全年齢対象のPSP向けソフト(ダウンロード専用)として移植リリースされた。並行して作られていた最新作『ChuSingura46+1 -忠臣蔵46+1-』は連作形式だったが、驚くことに途中から商業化が発表される。2013年に商業ブランドInre(18禁)としてデビューするや、リピートに次ぐリピート。同人時代以上の人気を得るようになった。
そして2015年には『僕はキミだけを見つめる』が、グラフィックとシナリオを刷新しフルリメイクされた。以降も順調に作品を重ね、2010年代にもっとも飛躍した美少女ゲームメーカーのひとつとなったのである。
© れいんどっぐ