
発売元:パイオニアLDC
初出:1996年
当時次世代機と呼ばれた32bitゲーム機は、アドベンチャーゲームの表現を格段に向上させた。3DCGにおいては『Dの食卓』がまず存在感を示したが、2Dアニメーションにおいて真っ先に挙げたいのが『NOëL NOT DiGITAL』だ。発売元のパイオニアLDC(現NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン)は大手の音楽・映像ソフト会社として知られる*1。


旅行先で知り合った3人のヒロインの誰かと、クリスマスまでに恋人同士になることがゲームの目的。彼女たちとの交流はビジュアルフォンと呼ばれるテレビ電話を通じて行うのだが、ビデオ通話など一般化していなかった1990年代、これ自体が何よりも未来を感じさせ、次世代機の作品にふさわしかった。
そしてテレビ電話の向こうのヒロインたちは、ハイクオリティの滑らかなアニメーションで躍動感ある可愛い姿を見せてくれる。発売当時このクオリティのアニメを実現させていたゲームは他にほぼなかったのではないか。2020年代の今でもまったく見劣りすることはない。

肝心のゲームデザインは、従来のアドベンチャーゲームとはまるでかけ離れていた。ヒロインたちとの会話は文字表示がなく音声のみで行われ、あちらはノンストップで話しかけてくる。そしてプレイヤーは流れてくる「会話ボール」を的確に投げかけることで話題を提供していく。
「会話のキャッチボール」という表現があるが、まさにそれだ。ボールを送るタイミングが悪かったり、とうに賞味期限切れの話題だったり、特定の話題を聞いていなかったりすると上手く反応してくれない。高品質アニメーションと連動する会話は繋ぎ方が非常に自然で、リアリティあるコミュニケーションを構築することに成功している。ゲーム内時間が設定されており、不在の場合は留守電になり、あまり遅く連絡を取ろうとすると怒られたりもする。このようにボイスデータも多岐にわたり、膨大な量を誇る。声優ひとり当たり3、4日かけて収録され、台本は電話帳ほどの厚みがあったという。
間違いなくアドベンチャーゲームにおける新たなスタイルだった――のだが、あまりにも斬新すぎるデザインで、なおかつUIも親切とは言えず、ゲームとしては相当遊びづらい仕上がりになっていた。そして攻略難易度も非常に高い。私は自力プレイは早々に諦めて攻略サイトに頼らざるを得なかった。それでも膨大な会話パターンのすべて聞くのは不可能と考えていい。
ただしプロデューサーによれば『NOëL』の目的は攻略ではなく女の子たちとの時間を共有することにあるという。エンディングはあくまでもその結果でしかないのだと。これにはプレイヤーとの認識の差もあろうが、デジタルではないというタイトル通り、本当にそこにいるような女の子たちとの交流が第一というコンセプトは一概に否定はできない。
美点と欠点がはっきりしている本作だが、評判はある程度よかったらしく、『NOëL 〜La neige〜』、『NOëL 〜La neige〜 Special』、『NOëL3』(いずれも1998年)と合わせて4作のシリーズが発売された*2。
会話による攻略対象とのリアルタイムなコミュニケーション――このゲームデザインは今ならもっとより良く、遊びやすくできるポテンシャルを秘めていると個人的には考えている。そういう意味でも再評価されてほしい一作だ。
【参考文献】
『NOëL COMPLETE PLAYER'S BIBLE』(アスペクト、1996年)
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