アライコウのノベルゲーム研究所

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『探し屋トーコ』レビュー:探偵の現実と限界

『探し屋トーコ』(COF*Works、PC、2008年)

 

 本記事は2013年10月に公開していたブログ記事の、微調整の上での再掲となる。
 衝撃を受けたストーリーという意味では、今までプレイしたフリーアドベンチャーゲームの中でも未だに上位に位置している。

 


 

 どんな内容なのか想像しづらい、いかにも地味なタイトルだ。しかし私はこの『探し屋トーコ』に、過去にプレイしたどんなフリーアドベンチャーゲームよりも衝撃を受けた。

探偵のトーコこと間宮桃子

 探偵になるという夢を持つ少年、坂崎慎吾。しかし彼が憧れているのは、実際にはありえない推理小説の探偵だった。見かねた担任教師は現実を見てこいと、教え子の間宮桃子(トーコ)が経営する探偵事務所を紹介する。こうして慎吾は現実主義者のトーコのもとで助手のアルバイトをすることになったのだが……。探偵は登場するがミステリーではない、比較的珍しいストーリー。まずはこの一点において他作品と差別化が図られているだろう。

 複数の視点から進めていくシステムで、トーコ視点ではコマンド選択型となっている。殺人事件が起こるタイプの作品では見慣れたもので、早く先に進みたい人にとっては、少々もどかしい。これが実のところ、リアルの探偵がこなさなければならない地道な作業を演出する結果となっている。難易度はそれほどでもないので詰まることはないだろう。また、ゲームオーバーもないので安心。「タバコ」というコマンドがあるのは『探偵 神宮寺三郎』シリーズのリスペクトだろうか。

地道に調査を進めるトーコ

 探偵の仕事が実際は地味で目立たないものばかりというのはよく知られているが、本作はその実情を懇切丁寧に描いている。そのリアリティには首肯することも多かった。世間知らずの勘違い少年である慎吾が、様々な依頼に向かい合い、その中で徐々に現実を知っていく様子がなんとも胸に迫る。

 さて、私がこの作品のどういうところに衝撃を受けたかというと、率直に言えば後半に発生する事件があまりにショッキングなのだ。
 もちろん推理小説のようなトリックを使った事件ではない。内容自体は、どちらかといえばありふれたものかもしれない。だがクローズドサークルだの見立て殺人だの、フィクションでしかあり得ない事件よりも圧倒的な重みを持っている。それが探偵というものの現実と限界を知った少年、この主人公に突きつけられるからこそ、いっそうの辛苦が滲むのだ。華麗に事件を解決するヒーロー、そんな夢や憧れを完全に打ち砕かれた彼が、いかなるエンディングを迎えるのか……ぜひプレイして確かめてほしい。

 プレイ時間はおよそ10時間にも及び、フリーゲームとしては相当のボリューム。そして有料の同人ゲームや商業作品とも充分に張り合えるほどのクオリティを誇るシナリオ。探偵とは、仕事とは、そして生きることとは。いろいろなことを教えてくれる作品だ。

© COF*Works

www.freem.ne.jp

 


 

 好きだったあのフリーゲーム。発表から長年が経過して、作品はまだダウンロードできるが公式サイトは消えてしまった。作者は今どうしているのか気になる……こうしたケースは多々ある。
 しかしつい先日、この『探し屋トーコ』を開発したスタッフのひとりがXにアカウントを持っていることを知った。

 このようなメッセージを寄せている。私も個人的に少しやり取りをさせてもらい、心が温かくなったのだった。