アライコウのノベルゲーム研究所

ゲームライター・アライコウのノベルゲーム研究に関するブログです。

『サンダーボルト』シリーズレビュー:不条理影絵ノベルの傑作

『君の瞳はサンダーボルト殺人事件 ~太陽はまぶしい星~』(MN2 Factory、PC、2002年)

 

 本記事は2013年9月に公開していたブログ記事の、微調整の上での再掲となる。
 フリーの影絵ノベルといえばこれ、と未だに語り継がれるほどのシリーズだ。
 後述の実況動画を頭を空っぽにしてご覧いただきたい。

 


 

 フリーのノベル・アドベンチャーゲームで一番好きなのは何か? 非常に答えに困る質問だが、あえて選ぶならばこの不条理影絵ノベルシリーズを挙げたい。『君の瞳はサンダーボルト殺人事件 ~太陽はまぶしい星~』にはじまり、『バナナの皮 ~the rind of banana~』『君のハートにファイアーボール伝説 ~不運児段田の絶望~』『EAT Runner アンパンと地上最速の生き物』の4作品、通称『サンダーボルト』シリーズである。

本シリーズの象徴である落雷のエフェクト

 高校教師である三田(サンダー)が巻き起こす……ではなく、巻き込まれる不条理な大騒動が、シリーズを通して共通の流れだ。ストーリーを解説しようとしても徒労に終わるので省略するが、キャラクターグラフィックにシルエットが用いられているのが最大の特徴。このシルエットと落雷のエフェクトとの相性が、予想以上に抜群で笑ってしまう。さらにここぞというシーンでは滑らかなFlashアニメーションが繰り広げられ、なんとも見ていて飽きさせない。
 シルエットとコメディが意外にも相性がいいのは、『かまいたちの夜』がすでに証明していたことである。表情がないゆえに、通常のCGではなかなかできない大胆なポーズで見せることができる。これが得も言われぬ笑いを生むのだが、なぜ面白いかはそれだけでは説明できない。

 きわめて丁寧な筆致で書くことによるギャップが本シリーズの肝だ。ギャグだからといって下品で荒い言葉遣いは微塵もなく、どんなバカな展開であろうとも冷静かつ客観的な視点で語られる。なのに最後はいつも滅茶苦茶で変態的な勢いで解決してしまう。この現実とかけ離れた、静と動のズレっぷりがたまらないのだ。

躍動感あふれるシルエット

 私はこのシリーズに多大な影響を受けて、同じような不条理影絵ギャグノベル『女教師・美喜』シリーズを制作した。のみならず、作者の空月まちゃる氏に自ら要望して、『サンダーボルト』シリーズとのコラボレーション作品まで制作した。
 実は『EAT Runner』は私の要望に応じた空月氏が「じゃあ自分もコラボさせたい」と、女教師を出演させた経緯がある。プロのクリエイターとして活動している今、この頃のアマチュアらしい情熱はとても懐かしく思い出されるのである。

© 空月まちゃる

 


 

 もう20年以上前の作品だ。フリーゲームはネット上に作者の姿は見られなくともダウンロードURLだけは健在、というケースも少なくないが、残念ながら本シリーズは現在、公式のプレイ手段はすべて失われてしまっている*1。私も手元に保存してあるのは第1作の『君の瞳は~』しかない。
 しかしファンによる実況動画が残されている。中でも再生数が多いのはふひきー(現・稲葉百万鉄)氏による動画だ。

 ビデオゲームの保存は近年、多くの人の注目を集めるトピック。フリーゲームにとっても無関係ではなく、有志による実況動画は貴重な面もあると考える次第である。

*1:正確には『EAT Runner』はふりーむでダウンロードできるが、すでにサポートが終了したFlashが用いられているため、通常の手段ではタイトル画面で停止してしまう。