アライコウのノベルゲーム研究所

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『8月7日の雨宿り』レビュー:癒しの日常物語

8月7日の雨宿り』(GARA-LAND、PC、2000年)

 

 本記事は2013年9月に公開していたブログ記事の、微調整の上での再掲となる。
 フリーノベルゲームはこういうのがありなのか、と当時感嘆させられた。
 今プレイしてもその作風は貴重だと感じさせられる。

 


 

 フリーノベルゲームにおいて、異色と呼ばれる作品はいくつかあるが、この『8月7日の雨宿り』は特に際立った異色作といえる。
 初出は2000年8月だが、数度のバージョンアップを経て最終的にはWindows 7まで対応し、画面の解像度も大きくなった。作者にとっても愛着のある作品なのだろうということが窺い知れる。

 ストーリーは、バス停で雨宿りをしている3人の男女が1本だけ置かれている傘をどうするかで悩むという、たったそれだけのもの。他の事件らしい事件はまったく起きない。終盤でどんでん返し、というものもない。会話主体の文章で、ひたすらまったりと進行していく。こうして書いていても、本当にそんなのでノベルゲームになるのかと疑ってしまうほどだ。

1本だけある傘をどうする?

 しかしそれが、驚くほど安らぎに満ちたプレイ感を提供してくれる。キャラクターはいずれもまるで嫌味がないし、アナログ調のグラフィックも相まって、何ともほんのりとした、暖かい雰囲気がある。「俺は携帯持ってないしな~」「あたしもない」「私も持ってないです」の流れには時代を感じて微笑ましい。
 エンディング数は意外にも17個と多く、なかなか難易度は高い。作者のサイトには攻略情報が載っているが、できるだけ見ないでプレイしよう。それが作品により没入する秘訣だ。

 本作は異色にして、癒し系として十分に優れている。何度も繰り返しプレイしたくなる、他では得がたい作風だ。重たい雰囲気、殺伐とした雰囲気のゲームに飽きた人にぴったりだろう。
 同時に、大仰な設定がなくてもノベルゲームは作れるという、制作者にとっていい見本となっている。

© GARA-LAND

 


 

 本作は現在もダウンロード可能だ。やはり初夏から夏にかけての、雨の日にプレイすると雰囲気が出るだろう。

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