
発売元:デジタル・トウキョー / プランプラン、ワークジャム
初出:1998年
シャーロック・ホームズを引き合いに出すまでもなく、魅力ある探偵はミステリーの重要要素のひとつ。国産ノベルゲーム発では『探偵 神宮寺三郎』シリーズの神宮寺三郎が代表格だが、『クロス探偵物語』はこれに勝るとも劣らない、高いポテンシャルの探偵を備えた優良ミステリーだった。
天涯孤独の身である黒須剣は高校卒業後、刑事だった父の正義感を継いで探偵になることを決意した。名探偵と呼ばれる冴木達彦に弟子入りするため冴木探偵事務所を訪れるところから、彼の探偵物語はスタートする。


剣は好色な面もあるが、推理力・洞察力・行動力と三拍子揃っている。常に顔出ししており、表情も漫画のように多種多様。ゲームでここまで多彩な顔を見せる探偵キャラクターはいなかったのではと思うほど、非常に存在感がある。彼の一挙手一投足が楽しく、またPlayStation版では草尾毅氏のボイスが追加されており、その好演が光る。
システムはコマンド選択型で、重大なシーンでは文字入力を求められる、ミステリーではスタンダードな形式。ストーリーは1話完結型で、第7話までが収録されている。各話の所要時間にはばらつきがあり、必ずしも殺人事件が発生するわけではない。サウンドノベルテイストの一本道や、迷宮めいたマンションを3D画面で探索する話も用意されており、メリハリの利いた構成も特徴となっている。
また高速のエンジン、その名も「マッハシーク」の搭載によりCD-ROMゲームでありながら読み込み時間がほぼ発生せず、快適なプレイを約束しているのも他作品との大きな違いである。

物語の軸はふたつある。ひとつは各話の事件の解決で、先述の通り様々な話があるが、凄惨な殺人を目の当たりにする第3話、第5話、第7話の緊迫感は素晴らしく、一昔前ならばこれだけで1本の商品になっていただろう。
もうひとつは不審死を遂げていた父にまつわる謎を追い求めること。その謎に迫る第7話の犯罪組織「毒蜘蛛」との対決は、途中の選択肢によって犠牲者の順番と死の罠が変化するという力の入れよう。所要時間も作中最大の約10時間と、最終話にふさわしい本作のクライマックスだった。しかしすべての因縁に決着が付くわけではなくストーリーは途絶している。
開発元のワークジャムには当然のように、続編の要望が「嫌というほど」来たという。のちに発売されたPlayStation廉価版には『クロス探偵物語2』の予告ムービーが収録されており、クリエイターたちも続編の意欲はあったようだが、残念ながら実際には発売されていない。ワークジャムは2000年代に入って『探偵 神宮寺三郎』シリーズの権利を受け継ぎ、『クロス』との探偵二本柱の展開も期待されていたが、その後倒産してしまっている*2。
「今世紀最高にして究極! 推理アドベンチャーゲーム大革命」*3
という謳い文句も決して大言壮語ではない秀作だったが、それだけに続編が実現しなかったのは惜しまれる。
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【参考文献】
『クロス探偵物語 公式ガイド』(ソフトバンクパブリッシング、1999年)