
発売元:ソニー・コンピュータエンタテインメント
初出:1998年
『NOëL NOT DiGITAL』で触れたように、1990年代後半には高品質アニメーションで楽しませるアドベンチャーゲームが登場するようになった。中でも一定の商業的成功を収めユーザーの高評価をも獲得したのが、「みるドラマから、やるドラマへ」というキャッチコピーを掲げた『やるドラ』シリーズである。
部分的にアニメを採用するのではなく、フルボイス&フルアニメーションでストーリーが展開する本シリーズは、アニメ製作スタジオのProduction I.Gが企画から担当しており、PlayStation向けに四部作が同時に開発された。そのため基本的なシステムはほぼ共通している。ボイスありキャラの字幕はデフォルトでは表示されないが、オプションで表示するようにもでき、従来のアドベンチャーゲーム同様の感覚でのプレイも可能だ。
またシナリオの達成率を採用し*1、セーブ画面でいつでも確認できるようにしている。プレイヤーにいかにシナリオを読ませるかはノベルゲームクリエイターの永遠の課題だが、システムの工夫で解決しようとした好例だ。

第1作として世に出たのは『ダブルキャスト』。美少女アニメ系のキャラクターデザインがまずプレイヤーの目を惹くが、ジャンルはサスペンスホラー。
メインヒロインである赤坂美月の終盤の豹変ぶりは強い印象を残し、猟奇的な結末のバッドエンドも用意されている。第1作にして随一のインパクトを持つこの作品はまさに『やるドラ』の顔となり、現在もシリーズが言及される際は真っ先に挙がるタイトルだ。

第2作の『季節を抱きしめて』は一転してファンタジックなラブストーリーになっており、前作の展開に恐れおののいたユーザーにとっては清涼剤だった。
桜の木の下で見つかった少女は、今は亡き片思いの女性に瓜二つで……という導入部から、主人公の揺れ動く恋を描写していく。シリーズでは知名度・人気ともに『ダブルキャスト』に並ぶだろう。温かな春を歌い上げた主題歌も非常に美しい。

第3作の『サンパギータ』は東南アジア系の少女をヒロインに据えたという点で珍しい作風。キャラクターデザインには『攻殻機動隊』で知られる士郎正宗氏が参加している。
マフィアとの抗争が起こるなどサスペンス色を強めているが、ヒロインのマリアはシリーズ中トップクラスの愛らしさを持つ。なおサンパギータとはフィリピンの国花で、永遠の愛、信頼といった花言葉がある。実は『季節を抱きしめて』同様の純愛ものとも言えるのだ。当時はまださほど一般的ではなかったオートモードを導入しているのが、地味ながら確かな美点である。

第4作の『雪割りの花』は、事故で記憶を失ったヒロインが主人公のことを恋人と勘違いし、主人公は彼女のために恋人を演じるという、四部作の中ではもっとも現実的で、もっとも重いストーリーだ。必然的に、エンディングのほとんどで悲劇的結末を迎えてしまう。
しかし私がシナリオ的にもっとも評価しているのはこの作品だ。PS四部作はいずれもヒロインが記憶喪失に陥るという設定があるが、これを一番無理なく、適切に扱ったと感じるのである。

2000年にはPlayStation 2に移行し、やるドラDVDと称した『スキャンダル』がリリースされた。芸能専門のカメラマンである主人公が、たった一枚の写真から命を狙われることになるというサスペンス。
アニメーションのクオリティが格段にアップしたのは言うまでもなく、主人公もはっきり顔出しするようになったのがPS四部作との大きな違い。また時間制限ありの選択肢を導入したことで、プレイヤーはさらに緊張感が高まるようになった。

そしてシリーズ最終作としてリリースされたのが『BLOOD THE LAST VAMPIRE』。メディアミックス作品であり、ゲームだけでなくアニメ映画、実写映画、漫画など幅広く展開した。夜闇に紛れた吸血鬼との戦いを描いたストーリーは、古き良きゼロ年代の趣がある。
ここに来てシステムに大きなテコ入れが行われており、隠された分岐を探す「BLOODサーチシステム」を導入している。任意のタイミングでボタンを押すとサーチが始まり、分岐地点にヒットすると新たな分岐にジャンプできるというものだ。ただしサーチを多用すると自身が吸血鬼に近づいてしまう。難易度が非常に高くなる難点があったものの、シナリオとの綿密なリンクを試みた分岐システムは意欲的だったと評価できる面もある。
『やるドラ』シリーズのようなコンセプトで、これほど質と量を兼ね備えた作品は他になく*2、本邦アドベンチャーゲーム史における特異点と形容しても差し支えない。当時演出を担当した高木真司氏はこう語っていた。
これからはインタラクティブムービーだ、というように『やるドラ』的な企画はみんな考えてたと思うんですよ。でも誰も手を付けなかった。それは仕事として大変だからなんですね。じっさい作ってみたら大変だった。
――『サンパギータ オフィシャルガイドブック』P22
当時からアニメーションの製作現場は大きく変化しており、またアドベンチャーゲームのジャンル自体もトレンドが変化している。現在このようなゲームを成立させるのは、おそらくビジネス的に困難だろう。
© Sony Interactive Entertainment Inc.
【参考文献】
『サンパギータ オフィシャルガイドブック』(アスペクト、1998年)