アライコウのノベルゲーム研究所

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『氷雨』レビュー:高難易度の本格ミステリー

氷雨』(チームゴルボンズ 村田、PC、2001年)

 

 本記事は2013年9月に公開していたブログ記事の、微調整の上での再掲となる。
 フリーのミステリーノベルゲームの中では有名作。
 かまいたちテイストの推理作品をプレイしたいなら第一候補だ。

 


 

 かまいたちの夜調のビジュアルノベル、とダウンロードサイトの紹介にある。これだけでどんな内容かはわかるだろう。『氷雨』はフリーのミステリーノベルゲームとしてはトップクラスの人気を誇っている。初出は2001年だが、2004年には一度公開停止された。しかし再公開を望む声が相当にあったのだろう、2006年に細かな修正とともに再公開されて、現在に至っている。

主人公たちに謎のメッセージが届く

 高校の卒業旅行へ出かけた真田誠と天野恵。ところがアクシデントに見舞われ、山奥の洋館に辿り着く。そこにいたのはミステリーツアーの参加者たち。そして何者かから届けられた不審なメッセージ……このあらすじだけ読んでも、お約束のように殺人事件が発生するのだなと誰でもわかる。

 本格ミステリーであるからには、歯ごたえのある難易度であるか否かが第一に問われるべきだろう。この点、まったく問題ないどころか、相当にハードだ。プレイしたのがずいぶん前だったため、私は完全に内容を忘れており、もっとも簡単な解決エンドを見るのにも大変苦労した……というか完全に当てずっぽうだった。密室、消える死体といったギミックは超定番ながらしっかりしたもので、推理好きを満足させるだろう。停電が起きて真っ暗という設定のため、本編の大半は黒バックで進行するが、それだけにいきなり現れる死体のシルエットや鮮血のグラフィックに驚かされる。

暗闇の中で犠牲者が……

 セーブスロットが1つしかなく、任意にロードできないという特徴がある(かつてのバージョンはオートセーブのみだったので、これでも最大限の妥協らしい)。お手軽にプレイし直せるようなシステムは、本格ミステリーにはふさわしくない……作者の強い信念でそうしたシステムになったとのことだが、それでいいと私も思う。商業作品ならともかく、自由に作ることが許されるフリーゲームなのだから。
 
 また『かまいたちの夜』には見られなかった要素として、パートナーの好感度がある。序盤で彼女の機嫌を損ねてしまうと、ベストエンドに行けないのである。これがまた難易度に拍車をかけている。そして感心させられたのが、終盤のとある選択肢における、ほんのちょっとした表現の工夫が、実は攻略への大きな指針になっていること。これはまさにノベルゲームならではの手法だと拍手したい。結果としていっそうの難易度になってしまっているわけだが……。

 さんざん難易度高いと書いてしまった。事実なのだから仕方がないが、それでも人気を博し続けているのは、それだけ本格的で素晴らしいミステリーだったからに他ならない。謎解きに飢えている人はぜひとも挑戦してみてほしい。解決後に見られるアナザーシナリオもくだらなくて絶品だ。

© チームゴルボンズ 村田

 


 

 本作は今も公式サイトが健在。攻略情報も掲載されているので、迷ったら頼りにするといいだろう。