
※画像は2006年の『TRUE REMEMBRANCE-remake-』
本記事は2013年9月に公開していたブログ記事の、微調整の上での再掲となる。
商業化も果たしたフリーノベルゲームの名作。
心温まるファンタジーを求める人に推奨したい。
記憶。それはいつの時代も物語の素材として重宝されるもの。
『TRUE REMEMBRANCE』は悲しさと切なさ、そして温かさとともに、真実の記憶の物語を描き切った、フリーノベルゲームの中でも特にファンの多い名作として知られる。

世の中には悲しいことがあふれ、自ら命を絶つ人が増えている。セツナ病と名付けられたその病の対策のために作られた街で、記憶封士の「黒目」は少女「ラ」を新たな客として迎え入れた……。なんといってもこのヒロインの名前である。一度見たらそれこそ記憶を封じられないかぎり、忘れることはできないだろう。そして世界観にこの上なくマッチしたインターフェイスと繊細な文体、オルゴール調のBGMにプレイヤーは優しく引き込まれていく。
全8章+αからなるストーリーは、雪のように淡くゆっくりとしている。黒目とラの視点が章ごとに切り替わるので、互いをどう思っているかもじっくり読み込むことができる。停滞する街での、ほんの暖かい時間。それがいつまでも続きはしないのだろうと思っていたが、いざ終盤になり、仕事上の契約関係でしかないと思われていたふたりが、実は……という展開になると、それまで穏やかだった雪が急に雨に変わったかのような、かすかな喪失感を覚える。

主人公、ヒロインともに大きな魅力を持っているが、物語のキーマンとなるS級封士アナライが優れたキャラクターだ。彼の第一声「そこで死にそうな顔をしている君。この銃をあげるから、先に私を殺してはくれないか?」のセンスときたら、ちょっとただごとではない。登場シーンはそう長くないのだが、強烈な印象を残している。そして明らかになる真実の記憶……。緻密な宝石細工のような美しいエンディングは、プレイヤーの記憶にいつまでも残るだろう。
その類い希なるクオリティは商業関係者にも注目され、『TRUE REMEMBRANCE ~記憶のかけら~』というタイトルで、ニンテンドー3DSのダウンロード専用ソフトとしてリリースされた。キャラクターデザインに『物語』シリーズ(西尾維新、講談社)の挿絵で活躍するVOFAN氏を迎えて、さらに美しい作品に仕上がったのだ。
© 里見しば
残念ながら現在、ニンテンドー3DS版はストアのサービス終了により入手不可能になったが、原作のPC版は今でもダウンロード可能なので、こちらで楽しもう。