アライコウのノベルゲーム研究所

ゲームライター・アライコウのノベルゲーム研究に関するブログです。

国産ノベル・アドベンチャーゲーム200選 第51回『御神楽少女探偵団』

御神楽少女探偵団』(ヒューマン、PS、1998年)

発売元:ヒューマン
初出:1998年

クロックタワー』でホラーアドベンチャーゲーム界に名を刻んだヒューマン。開発の中心となった河野一二三氏は、推理アドベンチャーゲームにおいてもユニークな良作を世に送り出している。それが『御神楽少女探偵団』だ。

 華の帝都に居を構える御神楽探偵事務所。類い希な推理力を持つと評判の所長・御神楽時人の下に、事件を解決してもらうべく訪れる依頼人たち。彼らの依頼を引き受け捜査に乗り出すのは、華麗なる探偵助手の少女たち……。
 まず作品のコンセプトについて、河野氏はこう語る。

とにかく「怪しい」イメージに仕上げようというのが、前提にありました。なんか最近のゲームって理屈が多いじゃないですか。だから、探偵ものであっても、あまりカッコつけたものにはしたくなかったんですね。それで、江戸川乱歩風の荒唐無稽さといいますか、乱歩の傑作よりも駄作に近い味付けをしてみたわけなんです。

――『御神楽少女探偵団 最終帝都総説』P141

随所に挿入されるアニメーション。中には凄惨な現場も……

 この言葉通り、第一話からかなり猟奇的で、常識的にはあり得そうにない殺人が展開される。コンソールの推理ものでは時代設定も含め、なかなか見られない作風だっただろう。後味の悪い結末もあり、事件のシーンではアニメーションも挿入されるため、その陰惨ぶりが強化されている。主人公たちの休日を描いたおまけシナリオが別途用意されているのはせめてもの救いか。

 マップを移動しながら登場人物たちに聞き込みをしていくという形式だが、そこで従来の推理アドベンチャーゲームとは一味違う姿を見せる。本作の根幹を成すシステム「推理トリガー」だ。

推理トリガーを正しく発動しなければならない

 会話中に複数のテキストが色を変えて表示される。その中には推理の参考になると思われる情報が交じっており、これを確実に選択することで「推理ポイント」を加算していく。ポイントが一定の数値に達すればそのパートはクリアという具合だ。会話は何度でも聞けるが推理トリガーの発動には上限があり、使い果たしてしまうとゲームオーバーになってしまう。総当たりすればいずれ進めるコマンド選択型と、間違った選択肢を選ぶとバッドエンドになるサウンドノベルの折衷という趣だ。
 ここまで読んでピンと来た人もいるだろう。このシステムは『逆転裁判』(カプコン、2002年)との類似性がある。証拠をもって矛盾した台詞を指摘する『逆転裁判』の画期的システムを、一部先取りしていた形なのだ*1

 明確な難点もある。最終話が前編までの収録で、続きは次作に持ち越しという形だった。プレイヤーは消化不良感を抱えたまま、1年後の『続・御神楽少女探偵団 〜完結編〜』(1999年)まで待たねばならなかった。しかもこの直後にヒューマンは倒産してしまう*2
 シリーズ全体としては幸せな結果にはならなかったかもしれないが、推理アドベンチャーゲームのシステムを発展させたという一点で着目すべき作品なのは間違いない。

© 2009 HAMSTER Co. / NUDE MAKER

【参考文献】
『御神楽少女探偵団 最終帝都総説』(アクセラ、1998年)

*1:『ダンガンロンパ』プロデューサーの寺澤善徳氏が「個人的に『逆転裁判』や『ダンガンロンパ』のルーツは、あそこにあると思っています。発売当時、僕はヒューマンにいました。発言に対して選んだものが間違っていたらゲージが減るシステムは、それまで知りませんでした。」と語っているが、『逆転裁判』が直接『御神楽少女探偵団』を参考にした、というわけではないようだ。
https://dengekionline.com/elem/000/001/413/1413427/

*2:このため一時期は入手困難だったが、2003年にアダルトゲームの大手エルフから『新・御神楽少女探偵団』がリリースされ、『御神楽』『続・御神楽』の移植版も収録されている。