発売元:ハドソン
初出:1999年
優れたゲームには、人に行動を起こさせる力がある。
私はこの数年、何度も北海道旅行をしているのだが、そのきっかけは『北へ。』シリーズをプレイしたことだった。
タイトルだけは何となく知っていたが内容はまったく知らない――そんな作品にこの数年でもっとも夢中になり、舞台となった土地に実際に足を運ぼうとは、当初は私自身も思いもよらなかった。
第一作は1999年3月発売の『北へ。White Illumination』(以下、WI)。老舗メーカーであるハドソンのドリームキャスト参入第一弾だった。開発は広井王子氏率いるレッドカンパニー(現レッド・エンタテインメント)。タイトルに「。」が付いているのは、当時デビュー間もないアイドルグループ「モーニング娘。」からの着想だと広井氏は語っている。
ハドソンの拠点だった北海道では当時「MOVE ON 北海道」という、道内の魅力を全国に伝えるためのキャンペーンが行われていた。これに参加する形で制作され、ジャンルもただのアドベンチャーゲームではなく「トラベルコミュニケーション」としていた。数多の観光スポットや実在の施設や店舗を実写で登場させており、見知らぬ土地を実際に旅している気分にさせてくれるというコンセプトだ。
有意義なコミュニケーションのために搭載した独自システムがC.B.S.(コミュニケーション・ブレイク・システム)。ヒロインが話している最中に特定のタイミングでボタンを押すと、適切な返事をしたり、こちらから新規の話題を振って会話を継続できるというものだ。
つまりは随所に隠された選択肢を探すというシステムで、プレイヤーがC.B.S.の発生タイミングを知らなければそのまま進行し、知っていても意図的にスルーすることもできる。さほど洗練されていない印象だったものの、話し出したら一方通行になりがちなアドベンチャーゲームの会話に工夫を加えたものとして評価できるだろう。
旅先の北海道で魅力的な女性たちと出会い交流する、これだけであれば凡庸な恋愛アドベンチャーゲームとなっていたかもしれない。しかし前述のコンセプトが、自然と現地の女性たちにイニシアチブを与えるという効果をもたらす。
彼女たちは言わばツアーコンダクターでもあり、様々な場所を巡りながら関係を深めていく過程が、もっと北海道のことを教えてほしい、コミュニケーションを取りたいという感情を沸き上がらせる。とりわけ名物料理・食材の数々に主人公が舌鼓を打つシーンはWIの名物となっている。
また、ヒロインたちは下手に個性付けがされていない。なんら特別ではない平凡な日常を過ごす彼女たちはどこまでも等身大で、しかし強く印象に残る。その要因として、彼女たちの魅力が風景に補強されているということが指摘できる。
本シリーズはキャラクター以上に、現実の北の街の背景写真に強さがある。彼女たちにとっては見慣れている風景だが、道外の人間にとっては憧憬を抱かせる鮮烈なファンタジーとなるのだ。そしてヒロインたちも異郷からの来訪者である主人公と共に過ごすことで日々暮らしている街並みの素敵さを再発見し、主人公――ひいてはプレイヤーと喜びを分かち合うという構造になっている。
夏編でヒロインとの親密度を高めることができたなら本番の冬編で、新年のカウントダウンの中ホワイト・イルミネーションを一緒に見るのが最終目標になる。誰が相手でも最後の場所とシチュエーションが変わらない恋愛アドベンチャーゲームというのは、なかなか珍しい。しかしこれも、ここ以上のゴールはあるまいという、北海道ならではの明快な美点となるわけだ。
1999年8月にはファンディスク的な続編『北へ。Photo Memories』が発売される。その後2003年10月にPlayStation 2でヒロインを一新した『北へ。〜Diamond Dust〜』が発売された。夏編、冬編の二部構成であるのは変わらないが、主人公を運転免許を持つ大学生としたことで行動範囲がさらに広がったことが特徴だ。ヒロインの攻略そっちのけで道の駅スタンプラリーに勤しむことも可能。意欲的なシステムではあったが少し不便だったC.B.S.もだいぶ改善され、プレイしやすくなっている。
また前作にはなかった要素として、隠しヒロインの存在がある。そのうちのひとりは、当時のアドベンチャーゲームのキャラクターとしては珍しいパーソナリティを備えていた。これについては未プレイの人は可能なかぎりネタバレを踏まないように気をつけていただきたい(私はプレイ前に見てしまった)。そして2004年10月に『北へ。〜Diamond Dust + Kiss is Beginning.〜』が発売され、シリーズはこれで一区切りが付いた。
当時はまだ言葉として認知されていなかった「聖地巡礼」にプレイヤーを駆り立てた、『みちのく秘湯恋物語』『風雨来記』と並ぶ初期の旅ゲーのひとつに数えられるだろう。残念ながら権利関係が難しいこともあって、本シリーズは現在までに一度も移植、リメイク、復刻等が行われていない。今後も望みは薄く、ドリームキャスト、PlayStation 2の実機を手に入れない限りプレイは不可能となっている。
しかし発売から20年以上が経ってプレイすること自体が困難であるのに、今も新規のファンを獲得しているのは驚嘆させられる(冒頭で述べたように私もそのひとりだ)。北海道という土地の不変の魅力はもちろんだが、それに頼りきっていないヒロインたちの愛らしさあってこそである。
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【参考文献】
『北へ。White Illumination OFFICIAL GUIDEBOOK』(アスペクト、1999年)
