発売元:アークシステムワークス
初出:1999年
ループを題材にした作品は、ノベル・アドベンチャーゲームの花形のひとつとして2000年代以降に人気を博すようになった。その先鞭を付けたのはPCゲーム『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』(エルフ、1996年)であると多くの人が賛同するだろう。しかしコンソールにおいて登場した『Prismaticallization(プリズマティカリゼーション)』もひときわユニークな作品として取り上げたい。
アークシステムワークスは現在『探偵 神宮寺三郎』シリーズの発売元として知られる。企画の発端はキャラクターデザイナー森藤卓弥(現:射尾卓弥)氏*1の「女の子が描きたい、ギャルゲーを作りたい」という提案が採用されたことだった。
高校三年生の主人公は幼馴染の明美から、受験勉強のために避暑地のペンションで夏休みを過ごそうと誘われた。さほど気乗りのしていない主人公だったが、そこで他の女性たちとも知り合い……という導入はいかにも一般的にイメージされるギャルゲーだが、その先は「サークレイト・アドベンチャー」と称された終わりの見えない循環世界。ふいに謎のオブジェを拾った主人公は、同じ一日を延々と繰り返すことになる。
プレイヤーは「記録」と「解放」によりこの循環世界を巡っていく。各所に設けられているポイントにおいて、まずは「状態」を記録するか否かを選ぶ。
記録するしないに関わらずその回のループでは進行に影響はないが、次回のループで記録したポイントに到達した際に状態が解放され、シナリオが分岐する。そうして新しい分岐を次々と発見していきながらループの脱出を目指していく。状態を記録できる数には限りがあるため、攻略するヒロインに関係ない状態は記録しないよう注意しなければならない。またランダムで決まる天候によりイベントが変わるため、難易度はかなり高い。ひとつのエンディングに到達するまでにゆうに数十ループはかかるだろう。考えなしにプレイしていれば何百周でも繰り返してしまう。
ループ系のノベルゲームには様々なパターンがある。スタンダードなのは現在のループ内において最善を尽くし、状況解決の道筋を見つけるべく奮闘するというものだが、『Prismaticallization』は主人公が多少の違和感と既視感こそ抱くものの、ループを自覚していない。記録も解放も彼本人は何も認知しない。主人公が目標もなく、それぞれ悩みを持つヒロインたちとの時間を過ごしながら、何度も最初の地点に戻り記憶がリセットされる様をプレイヤーは漠然と観測するのである。
もうひとつ大きな特徴がある。主人公が青臭い自尊心の滲み出る、大半をカットしても一見ゲームの進行に影響はないと思えるほどのモノローグを長々と繰り返すのだ。このジャンルの成立以来、ノベル・アドベンチャーゲームは容量の限られる中、短くわかりやすくテキストを読ませることが命題のひとつであり、そのような中二病的テキストの書き方は忌避されるものだった。容量とマシンの処理能力が大幅に向上する90年代後半に入ってもほとんどのメーカーはその考えを踏襲していた。
そこで打ち出された本作のスタイルは、異例ではあったが許容された。自らの内で益体もない思考を繰り返す主人公の姿は循環世界のメタファーともなっている。実際にこれをカットしてしまってはこの作品は成り立たない。彼はやがて思考ではなくヒロインたちのために一歩を踏み出そうと決意し、循環世界の打破へと繋がる――シナリオとゲームデザインの確かな融合である。
光を当てれば様々に見えるプリズム。なぜ、どのようにそのような循環世界が生まれたのか? 多くは語られず、考察の余地を残す。
のちに生まれるループものの良作に比べるととっつきにくさは否めないものの、文芸性とゲーム性の双方に無視できない魅力を備える一品に違いない。
© ARC SYSTEM WORKS
【参考文献】
『電撃G's PREMIUM Vol.2 Prismaticallization ビジュアル&完全攻略オフィシャルコレクターズブック』(メディアワークス、1999年)
*1:本作以降はゲームだけでなくアニメのロボット・メカニックデザインも手がける。近年の参加作に『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』(2024年)、『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』(2025年)。