発売元:フォグ
初出:2001年
『みちのく秘湯恋物語』は旅ゲーというジャンルを開拓し、現実の土地と積極的にリンクさせる新たなアドベンチャーゲームの方法論を示してみせた。これを深化させたのが『風雨来記(ふうらいき)』で、さらにこのジャンルを発展させることに寄与した。
旅行雑誌「ふうらい」のルポライター兼カメラマンである相馬 轍(そうま てつ)は、新たな目玉企画として1ヶ月間の北海道野宿旅行レポートに取り組むことになった。かつて父親がグランプリを獲得した写真コンクール「心光展」への挑戦も兼ねたこの旅、亡き幼馴染の残したバイクで走り回る彼をどんな出会いが待っているのか……。
舞台となるのは道東と道北で、『みちのく~』よりも遥かに広いエリアとなる。そして移動手段がバイクというのが本シリーズ最大の個性だ。
マップを頼りに移動するツーリングモードで自由に決めた目的地を目指し、到着したらやはり自由に写真撮影していく。釧路駅や旭川駅などの繁華街、摩周湖や知床五湖といったメジャーな観光地もあれば、あまり知られていないマイナーな場所にも行ける。一日の終わりには撮影した写真を厳選してホームページにアップし、明日以降の読者の反応を楽しみに待つ。
気ままな野郎一人旅を貫いてエンディングを迎えることもできるが、本シリーズは恋愛アドベンチャーとしての側面も持つ。各所で出会うヒロインたちと交流し、彼女たちも写真に収める過程で、さらに絆を深め合っていく。
しかしその展開は今ではあまり考えられないかもしれない。いずれのヒロインとも結ばれず、最後には別れが待っているのである。これには企画・脚本を務めた浅野公一氏の確固たる理念があった。
主人公が旅をする話は数あれど、そのほとんどが旅して、出会って、結ばれて。『君に出会う為に旅をしてきた』という結末。それを見て思ったんです。あ、この主人公はもう旅をする必要は無いんだなって。そして疑問に思ったんです。そもそも、その主人公にとって、旅は目的の為の手段でしかなかったのかな?って。もっと旅そのものに焦点を当てた話が作りたくて、まず最初に『終わらない旅』を根幹に話を考え、別れと始まりを主題においてみたのです。
――「ふうらい問答」『風雨来記 オフィシャルコンプリートワークス』P129
かなり異例のシナリオだが、結果としてこれが無理なく続編の『風雨来記2』(2005年)に繋がった。前作から4年、出会いと別れを経て成長した相馬が、沖縄を舞台に新たな撮影に挑む。亡き幼馴染の名前で出された手紙を受け取るというプロローグが謎めいており、前作からのファンの好奇心を掻き立てる。
この2では目的地を選ぶと自動的に到達するシステムに変更されており、バイク旅の醍醐味が薄れてしまっているが、かなりプレイしやすくなっている。沖縄特有の文化と色彩豊かな土地を巡り、人々の方言に接するのは、前作にはなかった楽しさだ。1のヒロインたちは交流することがなかったが、2のヒロインたちは積極的に仲良くしているのが微笑ましい。
また、沖縄に触れるのに歴史――第二次世界大戦中の出来事は避けて通れないが、各所で旧日本軍の蛮行や民間人の悲劇、戦後の米軍問題について相当の分量を割いて紹介している。沖縄を舞台にしたアドベンチャーゲーム自体が少ないが、作り手たちの真摯な姿勢が見て取れるのだ。
※画像はPS Vita版(日本一ソフトウェア、2015年)
『風雨来記3』(2013年)は再び北海道を舞台にしているが、今度は全道を行き来できる。ツーリングモードも復活しているが、さらなる解像度の向上で風景が格段に綺麗になった。
主人公は高校時代に見た記事をきっかけにルポライターになった青年で、1&2との繋がりが示唆されている。誰かの旅が、別の誰かを旅に駆り立てる……本シリーズをプレイしてゲームと同じ舞台に行きたくなったユーザー、その分身のようにも感じられる。読者からの感想はホームページやブログのコメントではなく、SNS方式で閲覧するのが2010年代らしい。これを演出として早期に採り入れた事例のひとつと思われる。
フォグは2021年に解散したが日本一ソフトウェアのブランドとなり、同年にリリースされた『風雨来記4』はその日本一ソフトウェアの所在地である岐阜県が舞台となった。これまでは静止画だったツーリングモードが360度カメラで撮影された動画となり、臨場感が大幅パワーアップした。
そして2025年には三重県が舞台の『風雨来記5』が登場。最新マシンの力を得てグラフィックはより精緻になった。さらに1&2の主人公である相馬がゲスト出演し、往年のファンを沸かせている。
シリーズが令和の世になっても続いているのは実に喜ばしいことで、今後とも継続を願いたい。1が最近Steamでリリースされたので、お手軽に原点に触れたい方はこちらがいいだろう。
© FOG / Nippon Ichi Software, Inc.
【参考文献】
『風雨来記 オフィシャルコンプリートワークス』(高橋書店、2001年)