アライコウのノベルゲーム研究所

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国産ノベル・アドベンチャーゲーム200選 第58回『Ever17 -the out of infinity-』

Ever17 -the out of infinity-』(KID、PS2、2002年)

発売元:KID
初出:2002年

「記憶を消してプレイし直したい」――優れたノベルゲームに対してこのように言及されることがある。物語を根幹とするこのジャンルにとっては最大級の賛辞だが、『Ever17 -the out of infinity-』はそんな評価を受ける作品のひとつ。『Memories Off』シリーズと並ぶKIDの代表作であり、ノベルゲームのシナリオ技法を大きく拡大させたエポックメイキングな秀作として知られる。なお『infinity』というシリーズの一作に位置づけられているが、これだけプレイしても問題はない。

事故発生により窮地に陥る主人公たち

 2017年春、海中テーマパーク「LeMU(レミュウ)」に足を運んだ倉成 武(くらなり たけし)。ところが突如発生した事故により、武はLeMUに閉じ込められてしまう。LeMUが水圧で崩壊するまでの時間は約170時間17分。絶望的な状況の中、武は他に取り残された者たちと共に地上に脱出する方法を探し求めていくが……。
 プロローグ後、武ともうひとりの主人公である記憶喪失の「少年」、どちらかの視点で進めていくことになる。恋愛アドベンチャーの要素を備えており、攻略できるヒロインがそれぞれの主人公で異なるという構成だ。

ふたりの主人公の視点で進めていく

 しかし海洋を舞台にしたロマンスもありの閉鎖空間サスペンス――それだけであればノベルゲーム史に残る高評価を得ることはなかった。実のところ本稿もネタバレ回避のために多くは書けないのであるが、ひとつだけ言えることは、ビデオゲームならではの仕掛けがあるということ。そんな仕掛けがあること自体教えないでほしい? 心配せずともいかなる仕掛けか、初見の人が気づくのは困難だろう。存分に身構えたのちに驚愕してほしい。
 昨今はノベルゲームの実況がよく見られる。シナリオが命であるこのジャンルの実況は決して望ましくないというクリエイターの声は多い。そこで『Ever17』の現在の発売元であるMAGES.は、実況の許諾を一切行わないという強固な姿勢を取っている。本作に秘められたトリックの衝撃はプレイヤー本人だけのものにしてほしいということだ。ディレクターを務めた中澤工氏は次のように語っている。

アドベンチャーゲームで、まだまだこんなことができるんだ、というゲームの可能性を提示したかったんです。

――「スタッフインタビュー 中澤工」『Ever17 -the out of infinity- ビジュアルファンブック』P81

 本作は巧緻を極めたSF展開とまさにビデオゲームでしか不可能な仕掛けで多くの愛好家を感嘆させたばかりでなく、アカデミックなノベルゲーム批評の場でもしばしば取り上げられている*1。個人的には、同じノベルゲームのクリエイターであれば基礎教養としてマストと考えている。
 2011年にはシナリオの設定を改変しキャラクターを3D化したリメイク版が発売された。スマートフォン向けアプリやPCダウンロード版もリリースされたがのちに配信停止されている。実機を持っていなければプレイできない状況が長らく続いていたが、2025年にファンの待望に応えて現行機向けにリマスター版が発売された。こちらはリメイク版のシナリオを元にしているが、キャラクターは2Dに戻されている。なお、苦労してでもPlayStation2やドリームキャストを入手して、改変前の原作を味わうのも悪くはないだろう。

 ともあれ有名作なだけに、ネット上には多くの情報が掲載されている。未プレイでこれからプレイしてみたいという方は下手に検索せず、極力ネタバレを踏まないように気をつけていただきたい。

© MAGES.

【参考文献】
『Ever17 -the out of infinity- ビジュアルファンブック』(エンターブレイン、2002年)

*1:東浩紀『ゲーム的リアリズムの誕生 動物化するポストモダン2』(講談社、2007年)など。