※画像は愛蔵版(PS2、2009年)
発売元:アイディアファクトリー
初出:2006年
2000年代の乙女ゲームシーンの隆興を語る上で、アイディアファクトリーのブランド「オトメイト」は欠かせないだろう。現在までに多数の作品を送り出しているが、中でも『緋色の欠片』は最初のヒット作でありファンの多いシリーズだ。
両親が転勤することになり、母の実家がある村に引っ越してきた主人公の春日珠紀。そこで珠紀を待っていたのは、世界を滅ぼすと言われる「鬼斬丸」を封印管理する「玉依姫」としての使命だった。封印が解けかかる鬼斬丸に招かれるように現れる襲撃者たち。珠紀は玉依姫の守護者である少年たちと共に、過酷な運命に立ち向かっていく……。
システムはオーソドックスな選択肢型。どの選択肢を選んだかによって最終的な攻略対象が決定される。各キャラクター毎にグッドエンドと悲恋エンドが用意されており、後者は鬼斬丸にまつわる事件は解決するものの、切ないラストを迎えることになる。この手の結末は男性向けではノーマルエンドとカテゴライズすることがあるが、悲恋エンドという名称自体が乙女ゲームならではの特色だ。
何より強調されるべきは、恋愛を基調としながらもバトルを交えた和風伝奇であること。日本神話の要素が組み込まれ太古よりの因縁が関わるなど、それ以前の作品では『久遠の絆』に近い。異世界ファンタジーや現代の学園恋愛が多数を占めていた乙女ゲームでは、かなり希少な作風だったと言える。恐れながらも戦いに身を投じ運命に抗おうとする珠紀は、とても応援したくなる女性だ。
また第三者視点の幕間パートの導入や、バッドエンド後の漫談形式のヒントコーナーには、近縁ジャンルであるPC美少女ゲームからの影響が少なからず見て取れる。
老獪な主人公の祖母、敵の首魁である少女、その配下の妖艶な魔女など、乙女ゲームでありながら男性に劣らず存在感のある女性が複数おり、重要なポジションを占めているのもこの影響と無関係ではないと感じさせる。男性向けと女性向けの橋渡しをするようなユニークさを持っているのだ。
第1作が評価を得たことで、オトメイトはこのシリーズを強力に推進していく。ナンバリングタイトルに限っても『翡翠の雫 緋色の欠片2』(2007年)、『蒼黒の楔 緋色の欠片3』(2008年)、『白華の檻 緋色の欠片4』(2012年)が発売されている。男性向けで目立っていた伝奇ノベルというジャンルは、本編以降せいぜいファンディスクをひとつ出す程度でシリーズ化されることはあまりないが、ここまで継続する例は珍しい。伝奇である前に恋愛という、ここにも女性向けゲームらしさが表れている。
ファンディスクや外伝、移植版を含めると、2006年から2013年まで毎年必ず何かしらのゲームが発売されていたというのは、当時の充実ぶりが窺い知れる。またノベライズやキャラクターソングCD等の関連商品も膨大な数に上り、テレビアニメは二度にわたって放送された。
名実ともにオトメイトの屋台骨を築き上げ、乙女ゲームの歴史全般から見ても重要なシリーズである。最近も現行機向けに移植版を発売するなど旧来のファンを忘れない姿勢を示しているが、何かしらの新展開を期待している人は多いだろう。
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