アライコウのノベルゲーム研究所

ゲームライター・アライコウのノベルゲーム研究に関するブログです。

国産ノベル・アドベンチャーゲーム200選 第68回『逆転裁判』シリーズ

逆転裁判』(カプコン、GBA、2001年)

発売元:カプコン
初出:2001年

 史上もっとも鮮烈なシステムを提示したアドベンチャーゲーム。そんな投票があるとしたら、『逆転裁判』シリーズは間違いなく上位に食い込むのではないか。
 法廷バトル――従来になかったジャンルを打ち出したこのタイトルが、まさかカプコンの看板タイトルのひとつになろうとは、当の開発者たちも想像しえなかっただろう。

白熱の法廷バトル

 殺人の容疑をかけられた友人の弁護を受け持つことになった、新米弁護士のナルホドこと成歩堂龍一。はたして彼は友人の無罪を証明することができるのか――記念すべき第一作目はそんなオープニングで幕を開ける。
 証人や被告の証言に対して「ゆさぶる」「つきつける」といったコマンドを駆使し、事件を取り巻くムジュンを見出し、被告の無罪を勝ち取ることを目指す。1980年代から築かれたコマンド選択型アドベンチャーの発展系と言えるだろう。関係者の気になる発言をピックアップしていくというシステム自体は『御神楽少女探偵団』などの先行例があったが、本作はより遊びやすく、また法廷という舞台も相まってただならぬ緊迫感をもたらしてくれる。
 ミスを続ければあっけなくゲームオーバーになってしまう状況の中、小さな穴に糸を通すような、細かな証拠の積み重ねで真犯人を追い詰め逆転していく。これをゲームボーイアドバンスという限られた機能の携帯型ゲーム機で実現したのがまず見事だった。21世紀に入りビデオゲーム開発はますます大型化の一途を辿っていたが、この第一作目はたった7名のチームで作られたことも知られている。

 また2行のウィンドウで表示される、カタカナが頻繁に盛り込まれるテキストが特徴的だ。これはマシンの制約上の事でもあったが、結果としてこれが逆裁らしさと言えるオリジナリティを確立している。

巧:使える漢字の数に制限もあったし。よくカタカナの使い方が独特だと言われるけど、それは、セリフが目に入ったとき、ひと目で文章を読み取れるように意識したからですね。
岩元:二点リーダー(‥)である、とか。
巧:あれは三点リーダー(…)を使うとね、ポツポツが多くて、見た目の詰まり具合がお気に召さなかったんだね。


――「逆転裁判15周年トーク 巧舟*1×岩元辰郎*2」『逆転大全 2001-2016』 P103

 基本的なゲームデザインはすでに第一作で完成されていたが、ただ法廷バトルの画期的システムに頼ってはいない。弁護士でありながら探偵役も務める成歩堂は、自らの足で必要な証拠を集めなければならない。

逆転裁判2』(カプコン、GBA、2002年)

 たとえば『逆転裁判2』で登場した「サイコ・ロック」は、対話相手が隠している秘密を暴き出さなければならず、やみくもに選択肢を総当たりしていては先に進めない。以降も第一作のニンテンドーDS移植版『逆転裁判 蘇る逆転』から搭載された、タッチスクリーンで操作する「カガク捜査」など、プレイヤーを飽きさせない作りを次々と導入していった。

「異議あり!」「待った!」がキャッチフレーズともなった成歩堂は『探偵 神宮寺三郎』や『クロス探偵物語』などにも連なる、キャラ立ち第一の主人公と言えるのだが、先行作と違うのはさらに大きくフィクションに振り切っていることだ。
 そもそも本シリーズの司法制度は現実のそれとは大きく異なっており、それが主人公以外のキャラクターにも表れている。相方のヒロインは霊媒師としてファンタジックな活躍を見せ、真犯人たちは追い詰められる度に派手なアクションを披露する。あくまでもビデオゲームとしての外連味が重視されたのだ。

逆転検事』(カプコン、DS、2009年)

 敵方も魅力的で、とりわけライバル検事の御剣怜侍は絶大な人気を博し、彼を主人公とするスピンオフ『逆転検事』シリーズが発売された。法廷での裁判パートを廃し、事件現場での徹底的な推理で犯人を追及するシステムとなったが、看板キャラクターの成歩堂が不在でも本編に勝るとも劣らない好評を得ることに成功している。

 ナンバリングタイトルは6まで発売され、4~6で主人公を務めた王泥喜法介は成歩堂と比較すると当初はキャラの弱さが見られたが、最終的には成歩堂と並び立つ立派な弁護士に成長した。ふたりが共闘した6のラストは、シリーズのフィナーレにふさわしい熱さだ。
 その後は成歩堂の先祖を主人公にした、19世紀末が舞台の『大逆転裁判』も話題となった。公式発表ではシリーズの累計売上は1,300万本以上*3。海外でも大きな人気を得ており、成歩堂は英語名Phoenix Wright――不死鳥のように蘇る正義の男として知られる。まぎれもなく本邦アドベンチャーゲームの代表格たる主人公だ。

【参考文献】
『逆転大全 2001-2016』(KADOKAWA、2017年)

© CAPCOM

*1:『逆転裁判』シリーズの産みの親であるゲームディレクター。

*2:『逆転裁判』シリーズの複数作に携わったキャラクターデザイナー。

*3:シリーズソフト販売本数
https://www.capcom.co.jp/ir/business/salesdata.html