アライコウのノベルゲーム研究所

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『ずろうの棲処』レビュー:超視覚的ホラー

『ずろうの棲処』(キタユメ。、PC、2006年)

 

 本記事は2000年代に公開していた自サイト記事の、微調整の上での再掲となる。
 あの有名漫画のクリエイターが、かつてこんな作品を作り上げていた。
 ぜひその才能の原液を体感していただきたい。

 


 

 国を擬人化するという斬新なコメディ『ヘタリア』の作者である日丸屋秀和氏は、ブレイク前には積極的にフリーゲーム制作をしていたことを知らない人も多いかもしれない。『ずろうの棲処』は、氏の漫画家としての実力が遺憾なく発揮された、未完成ながら掛け値なしの傑作である。

穏やかな絵柄だが……?

 普通を絵に描いたような主人公の少女は、友人からの紹介で寒村の館でのアルバイトをすることになったが、そうと決めたその日から謎の声と姿に悩まされるようになる。ホラーとしてはそれほど捻りのない展開だろうか。館に到着してから、本格的に物語は動くことになる。エンディングは計7つで、中にはコメディエンドもあり、このあたりは日丸屋氏のギャグセンスが炸裂している。

 ノベル・アドベンチャーゲームはしばしば電子紙芝居と揶揄され、プロのクリエイターもいかに工夫して見せるかで日々頭を悩ませている。その試行錯誤の成果もあり、今でこそプレイヤーを飽きさせない演出のゲームは多くなってきたが、『ずろうの棲処』もひっきりなしに絵を動かす演出を取り入れていた。日丸屋クオリティと呼んで差し支えないその視覚的効果は、本作発表当時のフリーゲームにおいては群を抜いていたのだ。

この館で何が起ころうとしていたのか?

 使用されているツールは「Live Maker」。もともと動的な演出に強かったのだが、本作はその性能を最大限に引き出していた。フリーゲームでここまでやれるのかと、とにかく感動したことを覚えている。なおこの作品は「親父萌え乙女ゲー」を謳っているが、男性でも普通に楽しめる。

 穏やかな絵柄でシリアス、サスペンスが展開するというのは、のちにアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』などが登場したが、『ずろうの棲処』もその系列の先駆者として挙げたいほどだった。この前編のみで第1回ふりーむ!ゲームコンテストの最優秀賞、ホラー部門賞、大人気賞を同時獲得した。

 とてつもないポテンシャルに後編への期待が高まるばかりだったのだが――前編までの公開で制作は中断している。
 日丸屋氏は商業活動ですっかり忙しくなり、後編の制作は無期限凍結といった状況。それでもいつの日か世に出ることを夢見て待っていたい。

© キタユメ。

 


 

 本作は現在もふりーむでダウンロードが可能。
 もう続きは期待できないとしても、きっと楽しめるはずだ。

www.freem.ne.jp