発売元:ソニー・コンピュータエンタテインメント
初出:2009年
2004年12月に発売されたソニー初の携帯型ゲーム機PlayStation Portable。同時期に登場したニンテンドーDSの良きライバルとなったこの機種でも、いくつもの良作ノベル・アドベンチャーゲームが発売された。PlayStation、PlayStation2からの移植作も多かったが、オリジナル作品でまず挙げたいのが『銃声とダイヤモンド』だ。
警視庁に創設されて間もない交渉準備室・ゼロ課。立てこもり事件や誘拐事件において、犯人の逮捕よりも人質の解放を優先するその部署には、警察に所属しないプロの「交渉人」が配置されている。ニューヨーク市警で交渉術を学んだフリーの交渉人・鬼塚陽一はチームメンバーとともに様々な犯罪に対峙する。
本作のジャンル名は交渉ADVノベル。アメリカ発祥の交渉人(ネゴシエイター)という役職は、日本においても2000年代に入ってからいくつかの国内外映画、小説、テレビドラマ等で知名度を上げていた。ゲームクリエイターがこれに着目したのも自然なことで、嚆矢となったのはニンテンドーDSの『THE 交渉人』(D3パブリッシャー、2007年)だが、低価格ソフトのためにボリュームはそこそこに留まっていた。
そんな時に登場した『銃声とダイヤモンド』は、『弟切草』『かまいたちの夜』『街 〜運命の交差点〜』のメインスタッフだった元チュンソフトの麻野一哉氏が監修と演出を務めている。そのキャリアが活かされた濃厚な警察ものに仕上がっており、長大なエピソードの連なりは1クールのテレビドラマといった趣だ。
ノベルパートを経て交渉が開始したら、相手と一対一で会話をしながら、目標を達成するまで交渉を続ける。この会話はリアルタイムで進み、こちらから話しかける他、相手からの意見や要求に対して何かしらの返答を求められることがある。
どう話すかで流れが大きく変わるが、話しかけずに相手の話を聞く、相手からの問いに回答しないという選択もあり得る。『サクラ大戦』などで見られた時間制限選択肢の応用だが、交渉人というテーマを十全に引き出しているゲームデザインであると言える。交渉の結果によってエピソードの結末は変化し、そして相手が興奮して感情メーターが最大になるとバッドエンド。会話という行為がそもそも内包するダイナミズムを存分に味わうことができ、プレイヤーは知らず知らずのうちに焦ってしまうことだろう。
また一般的な立ち絵を用いないテレビドラマ的なカメラワークが特徴で、台詞テキストの表示方法も考え抜かれている。メッセージウィンドウは廃し、キャラクターの居場所に合わせて表示位置をその都度フレキシブルに変えているのだ。台詞自体も極力短く削ぎ落とされ、テキストが見せるべきキャラクターの邪魔になってしまわないように配慮されている。ノベルゲームクリエイターにとっても参考になる作りだ。
ひとつひとつの事件が十分に緊迫感があるが、ラストですべてが繋がり、海外勢力をも巻き込むさらに巨大な事件へと発展していく様は非常にスリリング。警察ドラマをよく研究して脚本と演出に落とし込んでいると感じさせた。売上にはあまり恵まれなかったようだが、その硬派で堅実な完成度は隠れた良作と呼ぶにふさわしい。
他機種への移植は一切されていないので、プレイするにはPSPの実機が必要になるが、ノベルゲームファンならぜひ抑えておきたい一作だ。
© Sony Interactive Entertainment Inc.
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