アライコウのノベルゲーム研究所

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国産ノベル・アドベンチャーゲーム200選 第77回『セカンドノベル 〜彼女の夏、15分の記憶〜』

セカンドノベル 〜彼女の夏、15分の記憶〜』(日本一ソフトウェア、PSP、2010年)

発売元:日本一ソフトウェア
初出:2010年

 物語の中で、物語を語る。
 劇中劇、枠物語、入れ子構造などと呼称されるその形式は、ノベル・アドベンチャーゲームにも少なからず見られるものだ。『セカンドノベル 〜彼女の夏、15分の記憶〜』もそのような作品のひとつである。
 企画・シナリオを手がけたのは深沢豊氏。アダルトゲームの中でも有数のプレミア作品『書淫、或いは失われた夢の物語』(Force、2000年)や、個人制作フリーゲーム『忘れものと落とし物』で知られる。その原型は同じく個人制作の『True Color,』という作品だったと明言されており*1、当初の予定が変更されて商業作品として発表されるに至ったものだ。

キーパーソンの彩野とユウイチ

 主人公の直哉は高校二年の夏、大切なものをふたつ失っていた。校舎の屋上から転落して命を落とした親友のユウイチ。その後を追うように飛び降りを図った、直也が想いを寄せていたクラスメイトの彩野。23歳の現在、夏休みに帰省した直哉は彩野と再会するが、彼女は飛び降りの後遺症として「現在の記憶を15分しか留めておけない」という記憶障害を抱えていた。直哉と彩野はこの再会を機に、五年前の事件の真相を探り始める……。

 本作は2種類のモードから構成される。ひとつは「ストーリーモード」。彩野が語る、当時の高校生活そのものではなくそれをモチーフとした「物語」だ。もうひとつは「フラグメントモード」。記憶障害を負う彩野が次の物語を語れるように、直哉が彼女から聞いた物語とキーワードをもとに「あらすじ」をまとめていく。そうしてストーリーモードとフラグメントモードの双方を順々に進行させ、事件の真実を拾い集めていく。

彩野のために物語のあらすじを作成する

 ふたりは言わば、ノベルゲームをリアルタイムで共同制作している。彩野の語る物語には大小含めていくつものパターンがあるが、それを彼女自身は記憶から上手く引き出せない。そこで直哉の協力を得て、話の流れを分岐させるための選択肢を作成し、すでに語られている物語に反映させる。
 登場人物には知覚不可能なシステムがあらかじめ用意した選択肢。それらを選びながら、始まりから終わりまで通しで読むというのがノベルゲームの基本構造だ。我々現実のノベルゲームプレイヤーは、たとえば初回エンディング後にフラグが立ったことで新しい選択肢が出現した瞬間を目の当たりにすることがあるが、作成しているという意識はない。ところが本作のシステムは、以前の地点に逐一戻りつつ、彼ら自ら生みだした分岐点から未知の展開に進むという、非常にユニークなものになっている。

 物語を物語だと自覚しながら、手探りでゆっくりと次のシーンに分け入っていく。その緊密でありながらもどかしいコミュニケーションを、深沢氏は恋愛の一形態として提示している。しかし彩野が語る物語にはなぜか直哉は姿を見せず、彼の疎外感を演出すると同時に作品全体の謎を強化しているのが非常にテクニカルだ。終盤でその謎が明かされる瞬間は、本作最大の醍醐味でもある。

 彩野についてもう一点指摘できるのは、彼女はさながらループ系ノベルゲームの主人公であるということ。短期間しか記憶を保持できず、覚えたことはすべてリセットされる。その様子を隣で見つめる直哉は、ループ系ノベルゲームをプレイしている時の私たちと近似性がある。直哉は物語の先に物事の解決が待っていると期待を抱くが――

【このパズルは、解くべきなのだろうか? それとも、手つかずのままにしておいた方が良かったのではないだろうか?】

【考えてみれば――『物語』の結末が、ハッピーエンドとは限らないのだ。】

 このような葛藤、懊悩も見せる。これは非常にノベルゲームプレイヤー的だ。そんな主人公と作品世界の造形に、深沢氏はきわめて自覚的だった。ノベルゲームに熱心なプレイヤーであるほど、直哉に感情移入できるのではないか。

 リアルとフィクションが混在する「青春-自己-探索-ミステリアス-認識-アドベンチャー」と称されたそのストーリーは、明快な答えは提示されず読み手に解釈を委ねる。深沢氏の作家性というべきものが強固に表出しており、その独創的なシステムも相まって、はっきり言って易しくはない。しかし『銃声とダイヤモンド』と並び、PSPオンリーの隠れた良作として記憶しておきたい作品である。

© Nippon Ichi Software, Inc.

*1:Getchu.com:げっちゅブログ:PSP『セカンドノベル 〜彼女の夏、15分の記憶〜』発売記念! テクスト。深沢豊インタビュー
http://blog.getchu.com/archives/51644617.html