アライコウのノベルゲーム研究所

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『Beyond the summer』レビュー:異色なほどに真っ当な恋愛物語

Beyond the summer』(あいはらまひろ、PC、2004年)

 

 本記事は2000年代に公開していた自サイト記事の、微調整の上での再掲となる。
 立ち絵なしの、背景画像を除けば文章のみで構成されている作品。
 それだけに、のちにプロデビューも成し遂げる描写力は抜群だったのだ。

 


 

 萌えというワードがすっかり浸透した現在だが、ノベル・アドベンチャーゲームにおいても、何らかの形で萌え要素が入り込んでいることは多い。それは毎朝迎えに来る幼馴染だったりツインテールだったりお兄ちゃんと呼ばれたり実家が神社で巫女をやっていたりと、形態は様々だ。

いつもの通学電車、どうする?

『Beyond the summer』は、そんな萌えの流行からもっとも遠い作品だった。主人公は何の変哲もない高校生。登場する4人のヒロイン(クラスメイトふたりと、見知らぬ高校生&大学生)もまた、これといった特色はない。退屈な日常のさなか、ふと思いついたように通学電車を乗り過ごした主人公は彼女たちと平凡な接触を果たす。
 何でもないようなこれら一連の描写は、素晴らしい爽快感に満ちていた。ヒロインたちは誰も性格がよく、まったく不快感が存在しない。あくまで現代的で、常識的で、等身大だ。

向かう先々で出会うヒロインたち

 また、このゲームには背景写真以外のグラフィックはないのだが、主人公とヒロインのやり取りはありありと目に浮かんでくる。絵がない分、プレイヤーは想像力をフルに使い、感情移入をすることができる。数々の選択肢を経て迎えるエンディングは、結ばれても結ばれなくても、読後感がいい。

 これほどまでに真っ当な恋愛物語も、フリーノベルゲームでは珍しい。異色と言えるほど爽やかさに満ちた青春ノベルゲームとして、夏空のようにいつまでも色褪せない作品になるだろう。

© あいはらまひろ

 


 

 本作はWindows 11でも起動を確認している。
 この作品の後も、作者のあいはらまひろ氏は盛んにノベルゲームを発表した。そして現在は作家としてもデビューを果たしており、活動初期の頃から存じ上げている身としては、そのニュースを聞いたときはとても嬉しいものだった。