アライコウのノベルゲーム研究所

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『メルクリウスの青い砂』レビュー:同人の域を超えた大作SFアドベンチャーRPG

メルクリウスの青い砂』(Studio F#、PC、2006年)

 

 本記事は2000年代に公開していた自サイト記事の、微調整の上での再掲となる。
 吉里吉里でここまで可能なのかと、当時大いに驚愕したものだった。
 設定面も膨大な大作SFアドベンチャーRPGである。

 


 

 サークルデビュー作がいきなりとてつもない大作というケースは、ままある。Studio F#のデビュー作となる『メルクリウスの青い砂』は、まさにそのケースに当てはまるだろう。シナリオが膨大のみならず、本格的なゲームシステムを組み込んだアドベンチャーRPGなのだ。

Ω-NETを駆け巡る新米ダイバーのユノ

 舞台は遙かなる未来。地球統一国家「ガイア連邦共和国」の旧首都・ガイアポリスに住む少女ユノは、失われたデータのサルベージを請け負う新米のΩダイバー。そんな彼女がある日偶然に、国家の重要機密に関わるファイル「メルクリウスの青い砂」を入手してしまい、政府から追われる身に……。
 電子の海を自在に行き交うSFストーリーということで、あらすじそのものはオーソドックスだ。青い砂を巡り、ユノたちと軍部の人間だけでなく、様々なキャラクターがどんどんと絡み合い複雑化していく様子に、どんなまとめ方をするのかと好奇心を掻き立てられた。

 感情表現の豊かなユノはとても愛らしく、男性女性問わず人気を博せるキャラクター。登場人物がかなり多いが、奇抜なキャラクターはほとんどいないのでストレスなく読めるのがグッド。主役級から敵役、脇役の町の人々まで、背景がしっかりしていて十二分に存在感を放っている。
 そもそも、世界観の作り込みようがただ事ではない。現代よりも遥かに発達したコンピュータ世界だが、一方で電気が慢性的に不足していたり、失われた技術がある(たとえば宇宙ロケットは飛ばせない)など、華やかならぬ未来というのは常道だが、どこか哀愁を漂わせる。後に設定資料集がリリースされたが、これが300ページ以上に及ぶ分厚さ。読みながらプレイしても全部を把握するのは困難だが、ともあれバックグラウンドを徹底的に構築するところから始まった力作だ。

敵を倒しながらダンジョンを攻略していく

 さて前述のとおり、ダンジョン攻略タイプのRPGシステムが採用されている。エンジンは同人ノベルゲームの定番である吉里吉里/KAGだ。読むだけではないRPG的なシステムを組み込んだアドベンチャーゲームはそれまでもいくつかプレイしてきたが、この作品の技術とスタイリッシュさは同人では群を抜いていると感じさせた。
 アイテムはメモリの容量が足りていればたくさん入れられるが、重要アイテムは容量が大きいため取捨選択に苦労するとか、役立つスキルはHPを表わすブレインポケットの上限を減らしてしまうとか……さらなる改良の余地もあると思わせたが、とてもユニークに構築されている。戦闘の音楽がカッコいいのも嬉しいところ。ボスにも状態異常攻撃が簡単に効いたりするので、攻略はさほど苦労しない。それでも難しそうという人や二周目以降をプレイしたい人には、RPGパートをスキップできる機能が用意されている。どれを選択するかはお好みだが、この完成度の高いゲーム性には一度触れてみることをおすすめしたい。

 創作の情熱が多大に詰まっており、かつシステム面でも商業作品に引けを取らない一作。プレイ時間を相当費やすので、じっくり大作を遊びたい人にはこの上なく最適のはずだ。

© FaSPel

 


 

 Studio F#は現在FaSPelという新サークル名で、フルHDリマスター版である『メルクリウスの青い砂 ReCollection』を開発中。Steamで作品ページが公開されているので、興味のある方はウィッシュリストに入れておこう。