※画像はNintendo Switch版『歪みの国のアリス REcollection』(2022年、ナイトメアスタジオ)
発売元:サン電子、ナイトメアスタジオ
初出:2006年
2000年代も半ばを越えると、フィーチャーフォン発のオリジナルノベル・アドベンチャーゲームは着実に増加していた。
その中でも累計200万ダウンロードを記録し、「多くの女子高生に共感&支持され、口コミで広がった」*1という有名作が『歪みの国のアリス』だ。200万という数字はコンソール作品とは単純な比較はできないものの、基本プレイ無料がまだ浸透していなかった当時のモバイルゲーム史に刻まれるインパクトだろう。
夕暮れの学校で目覚めた女子高生・
タイトルからもわかるように、ルイス・キャロルの世界的な児童文学『不思議の国のアリス』をモチーフとした作品だ。随所がアレンジされているが、チェシャ猫の他にも公爵夫人、帽子屋、女王といったキャラクターが登場し、アリスが小さくなってしまうなどの有名エピソードも採り入れている。
モチーフ元はアリスが次々にナンセンスでコミカルな出来事に遭遇するが、『歪みの国のアリス』はそれをある程度継承しつつも濃厚なホラー要素を詰め込んでいる。いかにも人形めいた3Dキャラクターグラフィックが不気味な雰囲気を強化し、出血・欠損描写も少なくない。誤った選択肢を選べばアリスは容赦なく死を迎えるか、正気を失ってしまう。
しかしアリスは異様な事態にただ怯えるだけの少女ではなく、モチーフ元のように適度にツッコミを入れたり、チェシャ猫たちとの軽いやりとりをしてプレイヤーの恐怖を緩和させる。このバランスが絶妙だ。そして次第に明らかになる「歪み」の正体……最後までホラーかと思われた物語は予想外の悲しいドラマを見せていく。
さて、本作はなぜ若い女性の人気を獲得し得たか。この当時、コンソールゲーム人口は男性が60~70%に対し、女性は30~40%という比率だった*2。一方でフィーチャーフォンの全盛期であり、中学生~20代後半の若年層では平均約90%という高いレベルで普及していた*3。これは男性と女性の間で普及率にほぼ差がないことを意味する。男性優位であるビデオゲームとは、まったく別のコミュニティを形成するのが携帯電話というプラットフォームだった。ゲームショップに足を運ぶ必要もなければ、ゲーム雑誌に目を通す必要もなく、その道に詳しい男性と接触する必要もない。
大きな心の問題を抱えた、等身大の少女が主人公の物語――少女漫画やテレビドラマでは普遍的なテーマである。もちろんモチーフ元の知名度が抜群なのも大きい。アドベンチャーゲームにあまり関心がなかった、あるいはまったく知らなかったという若い女性にも、独自の口コミで評判が広まり得るポテンシャルを持っていたのだ。幸せな形で時代の流れに乗れた好例と言えよう。
オリジナルのフィーチャーフォン版はすでに新規のプレイは不可能だが、現在はNintendo SwitchとSteamでリメイク版がリリースされており、スマートフォン版は一時的にストアから取り下げられているが再リリースが予定されている。ボリュームはほどほどで時間はさほど取らないので、ホラーアドベンチャーゲームというものを知らなかったティーンエイジャーには特に推奨したい。
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*1:iPhone/iPod touch/iPad 向け アドベンチャーゲーム『歪みの国のアリス』配信開始!~携帯発の女子系ホラーアドベンチャー~ | サン電子株式会社
https://www.sun-denshi.co.jp/soft/news/2010pdf/1014g.pdf
*2:『ファミ通ゲーム白書2006』(エンターブレイン、2006年)掲載のハード機種別統計から。
*3:子どもの携帯電話利用の現状と今後について ~大いなる潜在性と普及に向けた課題~ | 株式会社KDDI総合研究所
https://rp.kddi-research.jp/download/report/RA2007029
