本記事は2010年代に公開していた自サイト記事の、微調整の上での再掲となる。
学園を舞台にしたサスペンス……そんなありきたりな説明では収まらない作品。
少年たちと大人たちが織り成す映画的ストーリーを堪能してほしい。
何といってもタイトルからしてセンスがいい。体験版に触れた時、そう思っていた。センスがいいタイトルの作品はだいたい面白いので完成版にも期待していたが、それが裏切られることはなかった。
弟の不審死を調べるべく学院にやってきた雑誌記者の津久居賢太郎と、欠員補助のため採用された英語教師の槙原渉。この両名を主人公としてストーリーが展開する。
幽霊棟と呼ばれる建物に、わけもわからず男子生徒5人に監禁される津久居。不安を抱えながらもその5人と幽霊棟で生活する槙原。どちらの視点も、強烈というのではないがたゆたうようなサスペンスの香気が感じられる。表情を様々に使い分ける男子たちの存在感が非常に印象的だ。
インターフェースがまた独特で、画面中央下部に句読点を使わないごく短いテキストを中央寄せで表示している(普通は左寄せにする)。そして斜体のフォントや、上下を黒塗りにした背景画像。これらが素晴らしく映画的な雰囲気を醸し出していており、他の作品とは一線を画したプレイ感を味わえるのだ。時折挿入されるボーカル曲も秀逸な演出となっている。
津久居の弟である御影清史郎の謎、かつての教え子を巡る槇原の壮絶な過去、5人の男子たちの思惑、彼らの側に立つ神波牧師の不可解な企み、そしてネヴァジスタと呼ばれる不思議な洋書……幾重ものストーリーの線が交錯するシナリオ構成となっている。初回のルートは情報が断片的で、全容を把握することができない。そのあとに個別ルートへ入るのだが、ここからが本領発揮ということになる。
子供と大人の境目にいる少年たちは、それぞれの事情により心の奥底で傷ついているが、その処方箋がわからない。大人に甘えるということも知らない。弱く、愚かで、精いっぱいな彼らが次第に愛しくなってくる。監禁されるという非日常の状況からコミュニケーションを図ろうとする津久居、教師という立場から彼らに同調しようとする槙原、暗い感情を抱きつつ裏で立ち回る神波。この3人の大人が関わることで、いっそう少年たちの脆い内面が引き出される。ひとつひとつ洗練された字幕的テキストが、このシナリオをこの上なく感情豊かに仕上げているのだ。普通にテキストを流す形式のアドベンチャーゲームでは、同じような印象は抱けなかったと思う。
女性向けの中でもかなり特異な作風だろう。プレイ時間は累計で20時間ほどかかり攻略もそれなりに苦労するのだが、優れた物語体験を保証する。なお、キャラクターを流用したパラレルゲームがいくつかリリースされているので、こちらも興味があれば手を伸ばしてみよう。
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本作は公式のBOOTHで現在もダウンロード販売されている。まずは体験版で感触を確かめるのをおすすめしたい。