アライコウのノベルゲーム研究所

ゲームライター・アライコウのノベルゲーム研究に関するブログです。

国産ノベル・アドベンチャーゲーム200選 第84回『STEINS;GATE』

STEINS;GATE』(5pb.、Xbox360、2009年)

発売元:5pb.
初出:2009年

 5pb.(現・MAGES.)が立ち上げた科学アドベンチャーシリーズ。科学に比重を置くSFをテーマにした、同社のゲーム事業の柱になっている作品群だ。そのシリーズの中でも『STEINS;GATE(シュタインズ・ゲート)』は群を抜く人気のループSFであり、また2010年代以降にもっともノベルゲームプレイヤーの支持を集めた作品のひとつである*1。開発にはPCノベルゲームの雄、ニトロプラスが協力している。

主人公の岡部倫太郎とメインヒロインの牧瀬紅莉栖

 主人公の岡部倫太郎は「狂気のマッドサイエンティスト・鳳凰院凶真」を名乗る中二病の大学生。彼が秋葉原に居を構えるサークル「未来ガジェット研究所」では、日々ヘンテコな発明品が作られていた。そんなある日、岡部は偶然にも過去へのメール送信機能を備えたマシンを生み出してしまう。好奇心に駆られる岡部は仲間たちとマシンの研究を重ねていくが、彼らに巨大なる陰謀と混沌とした未来が近づいていた……。

 まずオリジナリティとして挙げるべきは「フォーントリガー」というシステム。ストーリー内で重要なアイテムである携帯電話が、ゲームデザインの根幹としても機能しているのだ。岡部の持っている携帯電話はゲーム中いつでも画面上に呼び出すことができるが、これに電話やメールの着信が入ることがある。
 特に重要なのがメールだ。本作にはオーソドックスな形の選択肢が存在せず、受信したメール内のリンクテキストを選択して返信することによって、その後の展開に変化が生じる。

独自システムの「フォーントリガー」

 メール返信はその場ですぐに行う必要はなく、少しであれば保留してテキストを読み進めてかまわない。また返信は必須ではなく、すべてのメールを無視して進行させることさえ可能だ。
 これはきわめて画期的な手法だった。一般的な選択肢をごく短いリンクテキストに置き換え、画面上にごく自然に溶け込ませながら提示する――そこに確かに選択肢が存在するが、そうとは感じさせない巧みなユーザーインターフェイスとなっているのだ。本作の企画・原案を務めた志倉千代丸氏も次のように語る。

志倉 従来のテキストによる選択肢は、プレイヤーが神にでもなったような感覚がありますよね。でも本当の人生の選択肢はそんな明確に分かれているワケではないし、当然ながらまったく想像がつかない。だから『シュタインズ・ゲート』では、他愛のないメールの扱いなどから分岐させ、さきの展開が想像しにくい形にしているんですね。これがバタフライ現象そのものなのです。


――「プランナーインタビュー」『シュタインズ・ゲート 公式資料集』P119

 時間跳躍や過去改変をテーマにしたSFは、様々なジャンルのフィクションで数限りなく登場してきた。ノベル・アドベンチャーゲームにおいても黎明期から人気の題材だが、『STEINS;GATE』はそれら既存作とどこが異なっていたのか。
 最大の要因は、シナリオのリニアな構造だ。魅力的なヒロインが複数登場し、恋愛アドベンチャーゲームの要素もある本作だが、マルチエンディングではあるもののマルチストーリーではなく、本筋がすべて一直線に繋がっている。

 岡部は悲劇的な結末を回避するために必死に奔走する中、次々にヒロインたちが抱える問題に向き合う。彼女たちを受け入れる場合のみそれぞれの固有エンドを迎えるが、岡部自身の目的のために先に進もうとするなら、皆の願いをことごとく犠牲にしなければならない。そして岡部だけは彼女たちの想いを記憶し続ける……この悲壮な積み重ねがループ構造と絶妙にマッチし、一般的なマルチストーリー以上にプレイヤーの感情移入を促すことに成功したのだ。

「なかったことにはしてはいけない」

 のちのテレビアニメ版のオープニングテーマにも採用されたフレーズだが、『STEINS;GATE』という作品のストーリーデザインを端的に、かつ的確に言い表している。

 最初は日本国内ではさほど普及していなかったXbox360でのリリースだったが、それでも高品質シナリオの評判が口コミで広がり、爆発的な人気を得ることになった。複数機種に移植され、派生作品のリリースやメディアミックスも多数行われ、ノベルゲーム史に残る傑作という地位を確かなものにしている。またパラレルワールドや別の可能性等を指す意味での「世界線」という言葉が普及したのは、本作がきっかけとも言われる。一般社会にまで影響を与えたノベルゲームというのもそうはないことだ。
 現在はリメイク作品の『STEINS;GATE RE:BOOT』が開発中で、まだまだ話題は尽きそうにない。

© MAGES./NITRO PLUS

【参考文献】
『シュタインズ・ゲート 公式資料集』(エンターブレイン、2010年)

*1:週刊ファミ通2017年6月22日号の企画「アドベンチャー総選挙」において首位を獲得するなど。