アライコウのノベルゲーム研究所

ゲームライター・アライコウのノベルゲーム研究に関するブログです。

『ポートピア連続殺人事件』PC版の発売月をランキングから推測する

はじめに

 昔のPCゲームは発売日が正確にわからないものが少なくない。
 何月かまではわかっても日にちまでは特定しにくいのだ。当時の雑誌には発売日を記したスケジュール表などはなく、広告でもざっくりと「○月発売予定」などと表記されることが多いためだ。

 1983年発売のPC版『ポートピア連続殺人事件』もそんな作品のひとつである。ファミコン版については正確にわかっているが、オリジナル版はいつ発売されたのか? 有名作だけにしばしば話題になるらしい。日にちがわからないだけでなく、発売月も6月~9月とかなり情報にブレがある。

AUTOMATONの調査記事

 この種の論考の中で特に大がかりに調査されているのが、福山幸司氏によるAUTOMATONの堀井雄二特集記事だ。多くの資料を基に、最初のバージョンはPC-6001版で6月に発売され、PC-8001mkⅡ/8801版とFM-7/8版は8月だと結論されていた。

automaton-media.com

 ここで留意したいのは、PC-6001版はA面にPC-6001版が、B面にPC-6001mkⅡ版が収録されていることだ。

 PC-6001mkⅡはPC-6001の上位機種である。これの発売は83年7月であり、それ以前にmkⅡ版を収録したゲームが発売されたとは考えにくい、ということが識者から指摘された。

 なるほどこれは妥当性があるように思える。コンソールでも新ハードが発売される時、その前に対応ソフトが発売されることはないはずだ。
 では別のアプローチでこの説を補強できないかと私は考えた。そこで着目したのが各雑誌にある、ゲームの販売ランキングである。

売上はいつランキングに反映されるのか

 まずはっきりさせなければならないのは、ランキングは何ヶ月前の売上が反映されているのかということだ。
 これは発売月が正確に判明しているゲームを見れば割り出せそうだ。堀井氏らが入選した「第1回ゲーム・ホビープログラムコンテスト」の作品群は、83年2月発売である。これらが初登場したランキングを探してみよう。

 これは『PCマガジン』83年6月号(5月18日発売)のランキングだ。前月の5月号にはエニックス製ゲームはひとつも見られなかったが、ここでいくつかの入選作が同時にランクインしている。堀井氏の『ラブマッチテニス』はPC-6000シリーズでの首位だ。事前から相当に注目されていたことが窺える。
 寸評から判断してもこれが初登場月であることは間違いなく、つまり発売から3ヶ月後の雑誌のランキングに反映されるということがわかる。
 正確を期すためにもうひとつ『ログイン』83年8月号(7月8日発売)の広告を見てみよう。

 上記コンテストで最優秀プログラム賞をさらった森田和郎氏の次作『アルフォス』が6月発売予定とある。
 ここに『ポートピア連続殺人事件』も記載されている。この広告もあってポートピア6月発売説が有力視されていたようだ。
 はたして本当に6月に発売されたのか。『PCマガジン』83年10月号(9月18日発売)を見てみよう。

 PC-8000/8800/9800シリーズにおいて『アルフォス』が初登場で堂々の首位を獲得している。こちらは広告の通り実際に6月に発売され、3ヶ月後のランキングに載ったのだ。第6位には『激戦!南太平洋』が、PC-6000シリーズの第10位には『雷太のグローイングアップ』が、同じ広告に掲載されていた中ではこの2作がランクインしている。
 ところがどちらのランキングにも『ポートピア連続殺人事件』の姿は見つからない。
 売れなかったから? それは考えづらい。次の『PCマガジン』83年11月号(10月18日発売)を見てみると……。

ポートピアのランキング初登場

 首位は逃したものの、PC-6000シリーズで堂々の初登場2位を獲得している。
 そしてPC-8000/8800/9800シリーズにはその姿はない。……かと思いきや、別ページの代表店集計結果を見てみると、東京においてPC-8801版がランクインしているのだ。逆にPC-6001版は東京ではランクインしていないのが興味深い。

 では今度は『ログイン』83年11月号(10月8日発売)を見てみよう。

『ポートピア連続殺人事件』は第13位で初登場している。機種はPC-60、PC-60mkⅡ、PC80mkⅡ、PC-88、FM-7/8とすべて入っている。
 それまでは『PCマガジン』と同じく地域別の集計をしていたのだが、残念ながらこの号からやめてしまっており、東京や大阪でどんなランキングだったのかは不明である。

注意すべきランキングの集計期間

 ここでもうひとつ考慮しなければならないのは、ランキングの集計期間だ。
 単純に各月1日から末日までの売上を集計していると考えたくなるがそれは早計で、先ほどの『ログイン』83年11月号の画像に、右下に小さく〔8月20日現在〕とある。
 つまり各号毎月21日~翌20日までが集計期間で、11月号は7月21日~8月20日の集計だと判断できるのだ。

 これは9位に入っている『探偵物語 PARTⅠ』からも確かだ。『探偵物語 PARTⅠ』は薬師丸ひろ子主演の同名映画を元にしたアドベンチャーゲームで、劇場公開と同時発売されたことが当時の広告からわかっている。その発売日は7月16日だ。
 この作品のランキング初登場は10月号での24位(誌面ではランク外で確認できない)。初登場時は集計期間が数日しかなかったが、集計期間が丸1ヶ月取れた11月号でジャンプアップしたのだ。
 そして『PCマガジン』83年10月号をあらためて見てみると、こちらでも『探偵物語 PARTⅠ』PC-8801版が名古屋で10位に入っていることが確認できる。つまり『PCマガジン』のランキング集計期間も『ログイン』とほぼ同じなのではないかと推測できる。

まとめ

 以上のことから『ポートピア連続殺人事件』PC-6001版は当初の広告通りではなく、新機種PC-6001mkⅡが登場した83年7月以降……具体的には7月21日~8月20日の間に発売され、そしてPC-8001mkⅡ版、PC-8801版、FM-7/8版も同様の期間に発売していたと推測される。
 7月どころか8月という説も、これは俄然信憑性を増してくる。

 PC-6001版が最初に発売されたというのは先行研究からもおそらく正しいだろうが、PC-6001版以外は8月……あるいはすべての機種が8月発売だった可能性も高いのだ。
 そう考えると、2つの雑誌での初登場ランキングでさほどのスタートダッシュを切れていないことも頷ける。先行発売されたPC-6001版は『PCマガジン』83年11月号のとおり上位に入ったが、その他の機種は少し遅れて発売されたため、短い集計期間の中で初速が出なかったのではないだろうか。

 範囲をかなり絞り込めた感じだが、正確なことまではまだわからない……というのがひとまずの結論だ。ゲーム研究の難しさを肌で感じるところである。