アライコウのノベルゲーム研究所

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国産ノベル・アドベンチャーゲーム200選 第5回『惑星メフィウス』

『惑星メフィウス』(T&E SOFT、FM-7、1983年)

発売元:T&E SOFT
初出:1983年

 正式名称を『スターアーサー伝説Ⅰ 惑星メフィウス』という。1970年代からブームを巻き起こしていた映画『スター・ウォーズ』と著名な騎士道物語『アーサー王伝説』から着想を得たSFアドベンチャーゲームだ。
 T&E SOFTは兄の横山俊朗氏、弟の横山英二氏の兄弟により創業された。のちにアクションRPGを確立した『ハイドライド』、ゴルフゲーム『遥かなるオーガスタ』などを世に送り出し、1980年代から90年代にかけて大きな存在感を放ったソフトハウスだ。それまでもスマッシュヒットを出していたが、初期の代表作と言えるのはこの『惑星メフィウス』だろう。

 主人公のスターアーサー・ミルバックが強敵を打ち倒すために惑星メフィウスに降り立ち、伝説の剣を探し求める――というストーリーがカセットテープ3本組という破格のボリュームでもたらされる。これが第一のポイントで、大容量を売りにしたアドベンチャーゲームは後の時代では珍しくなくなったが、この当時は驚きを持って迎えられただろう。
 本作はコマンド入力型だが、基本のコマンドは入力しやすいよう配慮されている。「シラベル」であれば「シ」を入力するだけでいい。コマンド入力という行為はどうしても煩雑であるのだから、できるだけ簡易化すべき――ファンクションキーへの割り当てもそうだが、のちに主流となるコマンド選択型の雛形と言える思想だ。
 また、ごく簡易的ながらアニメーションを採用している。たとえば光線銃を撃つ(撃たれる)と、その軌跡が滑らかに描画される。グラフィック面でも当時のアドベンチャーゲームの最先端だったと言える。

十字型のカーソルを移動させて対象物を選択する

 そして革新的だったのが、カーソルを動かしてのオブジェクト指定だ。「トル」「タタク」といったコマンドを、対象物を選んでより直感的に行うことができる。
 横山英二氏が考案したこの「ポイント&クリック」方式は多くの後続作品に採用された。欧米のアドベンチャーゲームでもこの方式は編み出されたが、『惑星メフィウス』が少し先駆けていたというのは特筆すべきことだろう。

 難易度は全体的に高く、たとえば最初の入国税関でのやりとり。適当に答えても逮捕されて牢屋に入れられるという展開は同じなのだが、正しく答えていなければ後々困ることになる。この牢屋から先に進めないというプレイヤーは多かったようだ。どうにか先に進めても即死ポイントが複数用意され、そして22×22というとてつもなく広大なマップが待ち受ける。
 基本、一度クリアしたらおしまいなのがアドベンチャーゲームである。当時の作り手たちは皆「そう簡単にはクリアさせない」という気概にあふれていたが、本作も多くのプレイヤーが手こずったようだ。

 もうひとつ着眼したいのは、横山英二氏によるプロデューサー制を採用していることだ。
 1980年代前半、ビデオゲームプロデューサーという役職はまだメジャーではなかった。全体の統括者はいたとしても、その肩書きを明記して表に出る人は少なかった。
 国内では『信長の野望』を開発した光栄(現:コーエーテクモゲームス)の襟川陽一氏が、雑誌の取材で自分はそのようなポジションであると語っている程度だった。海外ではSierra On-Line創設者のケン・ウィリアムズ氏が目立っていたが、たとえばActivisionに在籍していたブラッド・フレッガー氏は、当初ゲーム内はもちろんパッケージでもクレジットされることがなかったと語られている。

参考記事:伝説のゲームプロデューサーに聞いてみた! 世界初『ミシシッピー殺人事件』インタビュー

 あらためて『惑星メフィウス』のタイトル画面を見ると、先頭にエグゼクティブ・プロデューサーとして横山英二氏の名があるのを確認できる。そして他のスタッフも次々に表示される。
 個人制作もまだ多く、その場合はそのクリエイターのみクレジットされることがほとんどだった当時のPCゲーム。本作は外部にも見える形でプロデューサー中心の分業スタイルを確立し、このゲームは我々が作ったのだとユーザーと業界人にアピールしたのだ。クレジットの重要性はビデオゲーム業界でもしばしば取り上げられるが、本邦においてそれをいち早く世に示した作品というのは言いすぎだろうか。

 その後『暗黒星雲』『テラ4001』とシリーズ化したスターアーサー伝説は、全作がプロジェクトEGGで復刻されている。興味がある方は、まずは会員になるだけでプレイできる第1作のPC-6001mkⅡ版から取りかかるのがいいだろう。

T&E SOFT 配信ゲーム | プロジェクトEGG

【参考文献】
『月刊ログイン』1983年8月号、11月号