アライコウのノベルゲーム研究所

ゲームライター・アライコウのノベルゲーム研究に関するブログです。

国産ノベル・アドベンチャーゲーム200選 第11回『WILL −THE DEATH TRAP Ⅱ−』

『WILL −THE DEATH TRAP Ⅱ−』(スクウェア、PC-9801、1985年)

発売元:スクウェア
初出:1985年

 国内最大手ビデオゲーム会社のひとつであるスクウェア・エニックス。旧スクウェアの創業は1983年、電気工事会社である電友社のソフト開発部門として始まった。
 それから数年はPCゲームを制作しており、デビュー作となったのが1984年の『THE DEATH TRAP』だ。諜報員が活躍するハードボイルドアドベンチャーで、開発者はのちに『ファイナルファンタジー』シリーズを手がけることになる坂口博信氏である。
 このデビュー作はシナリオ分岐を取り入れるなどボリュームもあり、気概にあふれる力作だった。そして続編の『WILL −THE DEATH TRAP Ⅱ−』は、前作とはまったく別方面で大きく話題をさらうことになる。

 PC画面上に魅力的な女性を描く――これは1980年代前半から、プロアマ問わず多くのクリエイターたちの関心事だった。
 美少女(あるいはエロ)を売りにしたゲームは山のようにリリースされていたし、雑誌の投稿欄やCGコンテストは盛況を博した。とりわけアニメ調の美少女を追求する者たちの情熱は著しく*1、後年にシーンを拡大するいわゆる「萌え絵」の発展に寄与した。
 やがてマシンの性能向上とノウハウの蓄積が、『WILL~』という当時ひとつの達成を生み出した。

 オープニング画面で、ヒロインであるアンドロイド「アイシャ」の横顔が大きく描かれる。この令和の時代から見ても素晴らしいクオリティだ。そして彼女は瞬きのアニメーションを見せる――私は当時を知らないが、これを店頭で目にしたPCゲームユーザーが衝撃を受けたであろうことは想像に難くない。
 ビデオゲームにおけるアニメーション自体はこれ以前から存在していた。しかしこれほどのアニメ系美少女の、たとえ「目パチ」だけとはいえ滑らかで大きく動くCGは前例がなかっただろう。

 本作のハイライトはそのオープニングと本編でのアイシャ初登場シーン、そしてエンディングであり、登場後から通常表示されるアイシャはいささか単調なCGになっている。さすがに全編にわたってハイクオリティとはいかなかった。
 しかしその分、背景の細かい部分がアニメーションするようになっている。波は絶え間なく寄せ、建物のライトは明滅し、敵キャラクターもおどろおどろしいまでに発光する。プレイヤーの目を飽きさせまいという強固なコンセプトが見て取れるのだ。

アイシャとの対話モード

 他の美点にも触れよう。本作独特のシステムとしてあるのがアイシャとの対話モードだ。「ハナス アイシャ」のコマンドでいつでもこのモードに映ることができる。
 その時々に遭遇するキャラクターと対話して必要な情報を得る――これが通常のアドベンチャーゲームの作り方だったが、アイシャは必要な情報を得た後も、いつでもプレイヤーのおしゃべりに応じてくれる。
 そこでプレイヤーは、当然のように悪巧みをする。恥ずかしいコマンドやはしたないコマンドを入力するのだ。そして開発者は、プレイヤーのそんな行動を想定している。こういう単語にも反応するのか、と私も驚かされた。
 相棒キャラクターと行動するアドベンチャーゲームは枚挙に暇がないが、コマンド入力型が廃れてからはこうした遊びも自然と忘れ去られることになった(決められたコマンドだけではパターンに限りがある)。もしかしたら現代のアドベンチャーゲームでも『WILL~』に倣った面白いやり方(セクハラ、パワハラにはならないような)ができるのではないだろうか。

 スクウェアはその後、さらにアニメーションを盛り込んだ『ALPHA』(1986年)をリリース。本稿で紹介した3作ともプロジェクトEGGでリリースされているので、興味のある人はプレイしてほしい。

スクウェア・エニックス(旧スクウェア) 配信ゲーム | プロジェクトEGG

*1:ハイクオリティのアニメ絵ゲームの元祖としては、エニックスから発売された『ザース』(1984年)が挙げられる。「ミリカ」というキャラクターのCGが広告に載るや、大きく話題を呼んだ。
(参考:ゲーム保存協会の紹介ページ)https://www.gamepres.org/pc88/library/1984/zarth.htm