発売元:エニックス
初出:1987年
ノベル・アドベンチャーゲーム史のターニングポイントがあるとすれば『ジーザス』はそのひとつに数えられる――そういった論は少なくない。
『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ』以降コマンド選択型のアドベンチャーゲームが普及し、プレイヤーは単語探しをすることなくストーリーを追いやすくなった。しかし依然として謎解き要素を強く残していたこのジャンルは一定の難易度を堅持しており、もしそのままであれば新規層の流入は少なく、それ以上の発展は見込めなかったかもしれない。
そんな時期に登場した『ジーザス』は、攻略の難易度をさらに下げるという大胆な方針を取った。コマンドを普通に選んでいくだけで自然とストーリーが進行するという作りだ。
当時の広告に載った惹句は「ニューウェーブムービーアドベンチャー」。すなわち映画的なアドベンチャーゲームである。
2061年、人類は再接近するハレー彗星に向けて有人探査機を飛ばすところまで科学を進歩させていた。世界8カ国から選ばれた乗員が2機の探査機に分乗し、スカイラブ「JESUS」から飛び立ったが、やがて1号機「コメット」からの通信が途絶える……。
ハレー彗星とは今の若い人にはピンと来ないかもしれないが、彗星の中でももっとも有名で、『ジーザス』が発売された前年の1986年に地球に接近していた。これを題材にしたフィクションは多く、本作もそのひとつだった。
「生命は地球で誕生したのではなく、彗星からもたらされた」
現実でも存在する説を下敷きに、本格SF映画*1を彷彿とさせる閉鎖空間サスペンスに仕立てたのだ。
道中にミニゲームや総当たりが必要な探索シーン、戦闘シーンがあり、間違えばゲームオーバーになることもあるが、理不尽なパズルなどはなく、それまでのアドベンチャーゲームと比べれば難易度は格段に低い。当時の雑誌には本作を評して「難しいだけがAVGじゃない」*2などと書かれたりした。
未知の生命体を相手に後手後手に回り、次々に命を落としていく乗員たち――映画の手法に則った三人称視点を基調とする、手に汗滲むリニアなストーリーを楽しめる。ノベル・アドベンチャーゲームは今も昔も一人称視点が大多数を占めるが、『ジーザス』のように三人称視点のカットを豊富に用いた作品は画期的だったのだ。
映画的演出を強く意識して制作された(hally、2013)音楽を手がけたのはすぎやまこういち氏。元々音楽界の重鎮だったが、ちょうど『ドラゴンクエスト』シリーズでも大きな名声を得るようになった時期で、ゲームミュージックの巨匠としての道をも突き進んでいた。
書き下ろされた楽曲は大小合わせて20を超える。アドベンチャーゲームとしては前例がない豪華さだった。同じ1987年に発売されたファミコン版の『オホーツクに消ゆ』と並び、このジャンルの音楽史を振り返るのに欠かせないものになっている。
そして本作の音楽はただ各シーンを彩るためだけのものではなく、ストーリー上で大きな役割を果たしている。アドベンチャーゲームの持つインタラクション性との見事な融合で、ラストシーンの盛り上がりは現代の作品にも引けを取らないだろう。
1989年にはファミコンでも『ジーザス 恐怖のバイオ・モンスター』のタイトルで発売された。いくつか削除された要素はあるものの美点を損なうことはなく一定の評価を得た。スクウェアと違いエニックスのレトロPCゲームは軒並みプロジェクトEGG等での復刻がされておらず、今から実際にプレイするならばこのファミコン版が現実的だろう。
そして1991年には続編の『ジーザス2』が発売された。こちらはコンソール移植されなかったこともあり知名度が低いが、グラフィックはさらに洗練され、ストーリーも引き続き良好だ。そしてこの令和の時代ではとても考えられないユニークなギミックが用意されており、アドベンチャーゲーム好きには見逃せない作品である。
【参考文献】
hally(VORC)『アドベンチャーゲームサイドVol.01 - アドベンチャーゲームの音楽史』(マイクロマガジン、2013年)
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