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発売元:ナツメ
初出:1988年
『メダロット』シリーズの開発などで知られるナツメ(現ナツメアタリ)が初期に送り出したコマンド選択型アドベンチャー。システム自体はオーソドックスだが、「サイケデリックゲーム・ニューウェーブアドベンチャー」(パッケージより)と称し、少なくともファミコンにおいてはかつてない作風を引っさげての登場だった。
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東南アジア大学歴史工学部旅行学科の四回生「東方見 文録(とうほうけん ぶんろく)」は商人の家系の出身。彼には代官山に日本一の雑貨屋を開くという夢があった。タイムマシンを開発した彼は開業資金を集めるため、敬愛するマルコ・ポーロと出会うために、13世紀のイタリア・ヴェネツィアにタイムトリップする。無事にマルコと出会えたブンロク青年は、黄金の国ジパングを目指して旅立った……。
テオバルド・ヴィスコンティ(ローマ教皇グレゴリウス10世)やフビライハーンなど実在の人物も登場する、時間旅行SFの王道とも言えるプロット……ではあるのだが、全編通してナンセンス、不条理、不謹慎に満ちている。「なぐる」コマンドがあるなどブンロクも何かと粗暴で、アドベンチャーゲームの主人公としては珍しいタイプだ。キャラクターの台詞だけでなくナレーションテキストも表示されるが、どこかふざけた調子で、怪しい雰囲気に拍車をかけている。
また、最終的には削除されたものの、開発中のデータにはさらに不謹慎な描写や、かなりグロテスクな描写もあったことが有志の調査で判明している。
さて、波乱に満ちたブンロクの旅はいかに決着するのか。
ハッピーエンドとはほど遠い結末が待っている。
ビデオゲームの本質はエンターテインメントであり、つまりプレイヤーを楽しませること……さらに言い換えれば、笑顔にさせ、感動させ、達成感を覚えさせることを目指している。『ポートピア連続殺人事件』などは殺人犯の悲哀が描かれ、やるせない読後感を残すが、事件そのものは解決しておりプレイヤーの目標は達成されている。
今でこそ文学性や芸術性を強調した作品も多く、誕生から50年以上経過した業界の成熟を窺わせるが、プレイヤーが能動的に動きインタラクションするビデオゲームはやはりご褒美のあるエンターテインメントであることが(特に商業作品においては)望ましいはずだ。
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しかし『東方見文録』はその基本からまったく外れている。
終盤で、ブンロクは不用意に時の流れを侵そうとする。そのような行為に走った者に与えられるのは罰であると昔から相場が決まっており、小説や映画では多く描かれてきただろう。
これを1980年代に、子供が多くプレイするファミコンでやってのけたことに戦慄を覚える。今よりも自由な空気があった時代の産物だろうか。ともあれプレイヤーに強烈な印象を残し、ファミコン屈指の怪作アドベンチャーとして挙げられるまでに至ったのである。
その作風からもはや復刻は望むべくもない本作だが、ブンロクが直面する結末は今も語り草になるほどの衝撃だ。ぜひとも一度は目にしてほしい。
© NatsumeAtari