アライコウのノベルゲーム研究所

ゲームライター・アライコウのノベルゲーム研究に関するブログです。

日本語化への意欲も! 『Beyond Shadowgate』発売記念スタッフインタビュー

【前回の記事】続編発売間近! 『シャドウゲイト』シリーズのこれまでを振り返る

 ついに『Beyond Shadowgate』が発売された。9月27日までリリース記念セールが行われているので、購入するなら今のうちだ。

 日本でもファンの多いシリーズである。もっと深く情報を知ってみたくなった私は、スタッフにメールインタビューをしたいと考えた。
 快く応じてくれたのは、SNSで本作の死神グラフィックをアイコンにしている、その名もずばりShinigami氏だ。日本語化の展望についてもそのお考えを余さずお聞きすることができた。ぜひご一読いただきたい。

Shinigami氏(@Chrisaegrim

――まずは日本のゲーマーたちに向けて、お名前とプロフィール、そしてZojoi以前の経歴を教えてください。

モーズリー氏:
 クリスチャン・モーズリー(Christian Moseley)です。『Beyond Shadowgate』のリード・デザイナー兼ライターです。『Shadowgate』シリーズの生みの親であり、Zojoiのオーナーでもあるデイブ・マーシュ(Dave Marsh)と一緒に仕事をしています。Zojoiのいくつかのタイトルに携わってきました。

・Shadowgate VR:ライター兼デザイナー
・Argonus and the Gods of Stone(アルゴナスと石の神々):QAテスター
・Shadowgate (2014):QAテスター

 Zojoiで働く前は、医学博士としてトレーニングを受けた製薬研究者でした。脳を画像化するための放射性化学物質を作るのが専門でした。

――次に、『Beyond Shadowgate』の主なスタッフを教えてください。

モーズリー氏:
 以下の通りです。

ジェフリー・カナム(Jeffrey Canam) - アート / ビジュアルデザイン
ジェーソン・カナム(Jason Canam) - プロジェクト・リード / プログラミング
オリエ・ファルコナー(Orie Falconer) - コンポーザー / オーディオデザイン
クリスチャン・モーズリー(Christian Moseley) - リード・デザイナー / ライター 
デイブ・マーシュ(Dave Marsh) - エグゼクティブ・プロデューサー / Shadowgateシリーズ・クリエイター

――『Beyond Shadowgate』は元々、1993年にTurboGrafxで発売されました。このTurboGrafx版は当初のスタッフの意図とはまったく違うものになってしまったと聞いています。当時に何があったのでしょうか?

モーズリー氏:
 1990年に『Beyond Shadowgate』のデザインを作ったとき、デイブはICOM Simulationsで働いていました。しかし会社の方向性が変わり、デイブは別のプロジェクトに移されました。
 彼のデザインは別のチームと共有され、新しいチームはゲームの性質を大きく変えましたが、デイブはTurboGrafx『Beyond Shadowgate』プロジェクトにほとんど口を出しませんでした。

 オリジナルの『Beyond Shadowgate』のデザインは、オリジナルの『Shadowgate』と似たスタイルと表現で、一人称視点のポイント&クリックアドベンチャーゲームでした。1993年のTurboGrafx版は結局、バトルシステムを備えたハイブリッド横スクロールアドベンチャーゲームになってしまいました。
 この2つのゲームはお互いにほぼ関係がありません。2024年の『Beyond Shadowgate』チームはオリジナルのデザインに従い、デイブと直接協力してゲームを制作しました。我々のチームはTurboGrafx版をプレイしていないので、それについてはよく知りません。登場人物の名前や場所の一部が同じで、ダンジョンの初期のパズルがいくつかありますが、私たちが知っているのはそれだけです。
 TurboGrafx版のゲームのトーンはオリジナルのデザインとはまったく一致しておらず、『Shadowgate』の世界観の正統なものとは考えていません。

――日本でも『シャドウゲイト』は有名なのですが、それはとてもユニークな翻訳のおかげでした。このことは以前からご存知でしたか?

モーズリー氏:
 はい、2013年にLegends of Localizationというサイトに書かれたクライド・マンデリン(Clyde Mandelin)氏の記事で、その特異な翻訳について読みました。

legendsoflocalization.com

 アメリカでは『Shadowgate』は今でも非常に評価の高いゲームなので、この記事には驚きました。30年の間に約14回も移植され、IGNが作成した「TOP 100 NES Games」の50位にランクインしています。だから『シャドウゲイト』が日本では史上最悪のゲームのひとつとされているというクライドの記事を読んで、この件についてもっと知りたくなりました。

(以下、クライド・マンデリン氏による記事の要約)

 英語版では、文章は二人称で「古英語ファンタジー」のスタイルに従っているが、日本語訳は一人称で、非常に一般的なものだ。
 例として、アメリカ版の「汝は真に勇敢な騎士である」。これが日本語では「わたしこそ しんの ゆうしゃだ!!」と訳されている。日本のプレイヤーにとってより受け入れやすいように、独自の工夫を凝らしているようだが、テキストは明らかに簡略化されており、雰囲気が薄れている。
 他にも、日本版はメインキャラクターの魔法使いラクミールが削除されていたりする。元々ほとんどキャラクターがいないゲームなのに!

※筆者注:日本語版『シャドウゲイト』は国内では「愛すべきバカゲー≠クソゲー」と捉えられていることが多いが、アメリカではこのニュアンスが必ずしも上手く伝わっているとは限らず、「日本では駄作だと評価されている」と真剣に考えている人も少なくないようだ。
 このインタビュー後、日本での一般的な受け止められ方についてモーズリー氏に説明したところ、「よく理解できました。ひどいことを言われてきたはずが、今でも非常に多くの人がこのゲームについて話し、ユーモアを交えて言及しているのは奇妙だと思っていたのです」と腑に落ちた様子だった。

 面白い話をしましょう。私はデイブに変わった日本語訳について知っているかと尋ねました。すると彼はファミコンとNESのゲーム間でどのように言語が変わったかという話をしてくれました。
『Shadowgate』はもともとMacintosh向けに発売されたもので、Macintoshのテキストがケムコに渡され、ファミコン版の『シャドウゲイト』に翻訳されました。米国任天堂版『Shadowgate』を作るとき、デイブは日本語のファミコンテキストの翻訳を渡されたのですが、彼はその日本語がとても奇妙と感じ、いくつかの部分を書き直して修正しなければならなかったといいます。

――あなたのアカウント名はShinigami(死神)です。日本のゲーマーがこのゲームに注目してくれることを期待しているということですね?

モーズリー氏:
 あはは、気付いてくれて嬉しいです! ええ、これは意図的でした。
 アカウント名を「Reaper」にしようかとも思いましたが、日本のファンのことを考えていることを伝えたかったのです。 『Shadowgate』は日本ではまだ知名度が高いので、日本のプレイヤーの興味を引いて続編を遊んでもらいたいと考えました。 『Beyond Shadowgate』 が良くできた楽しい体験を提供することで、日本で『Shadowgate』がまた人気を博すことを願っています。

『Beyond Shadowgate』のゲームオーバー画面

 なぜこのアカウントで死神のペルソナを採用したのかというと、理由はふたつあります。まず、死神はもっとも有名な『Shadowgate』のキャラクターです。第二に、私がゲームのシナリオとすべての死を書いたので、死神は私の言葉を話します。 『Beyond Shadowgate』では、私こそが死神と言えるでしょう。

――『Beyond Shadowgate』には現在日本語版がありません。もし日本語版が出るとしたら、ファミコン版のような翻訳を期待しますか?

モーズリー氏:
『Beyond Shadowgate』をいくつかの言語でリリースしたいと思っています。特に日本語でのリリースを熱望していますし、実現できることを願っています。
 どのように翻訳されるかについては、まだ答えが出ていません。日本のファンは、前作のような一風変わった翻訳スタイルになることを期待していると思います。それはそれで面白いし、懐かしいかもしれないですが、続編を体験するのに最適な方法とも思えません。

 子供の頃に『シャドウゲイト』をプレイしたユーザーは成長し、より成熟したゲームに触れられるようになったでしょう。私はオリジナルよりもダークで複雑なストーリーを書いたので、日本のプレイヤーには私たちが意図したとおりに『Beyond Shadowgate』を体験してもらいたいのです。

 


 

 特に最後の質問に関しては、多くの日本人ユーザーが気になっているところだと思う。私の観測範囲でも、ファミコンテイストの翻訳を期待している人がやはり多かった。大手ゲームメディアでもモーズリー氏のポストを引用する形で「開発者は日本語化へも意欲を示す」と紹介されたようだ。ただし公式のスタンスは上記の通りである。

 現在はファミコン版当時と比較して、あらゆるエンターテインメントジャンルで「原作の尊重」という考えが強まっている。テレビドラマ、映画、漫画、そしてもちろんビデオゲームにおいても。
 実を言えば私も、日本語化するならファミコン版のような翻訳を――と考えていたが、モーズリー氏の返答を受けて、それは少し無邪気すぎたと気を引き締めたところだ。
 いずれにせよ多言語展開がなされるには、本作がヒットすることが不可欠だ。陰ながら応援していきたい。