アライコウのノベルゲーム研究所

ゲームライター・アライコウのノベルゲーム研究に関するブログです。

ノベルゲームの構造と演出 画面構造4「縦書き表示」

 

 日本語は縦書きが可能であり、かつ日常生活に多用している、世界的に見ても珍しい言語だ。
 テキスト主体のジャンルであるノベルゲームでもこれを有効活用した作品が見られる。最初の成功例は1987年にファミコンディスクシステムで発売された『ふぁみこんむかし話 新・鬼ヶ島』だろう。

『ふぁみこんむかし話 新・鬼ヶ島』(任天堂、FDS、1987年)
※画像はNintendo Switch Online版

 昔話をモチーフとしたストーリーと巻物風のメッセージウィンドウは、縦書きにとてもマッチしていた。本作は大好評を博し、同じシステムを用いた第二弾の『ふぁみこんむかし話 遊遊記』が1989年にリリースされている。

 スーパーファミコン時代に移ると、チュンソフト発の「サウンドノベル」が全画面表示ノベルゲームを確立する。以降サウンドノベル風の作品が他社から相次いだが、縦書きを採用した『夜光虫』『学校であった怖い話』が同時期に発売されている。縦書きにすれば小説的な雰囲気が増すだろうという狙いだ。

【左】『夜光虫』(アテナ*1、SFC、1995年)
【右】『学校であった怖い話』(バンプレスト、SFC、1995年)

 縦書きノベルゲームはおのずとグラフィックの表示のさせ方も工夫しなければならないが、『学校であった怖い話』はキャラクターを左側に固定するという方法を採った。これならば右から流れるメッセージの邪魔にならず、スムーズに読むことができる。キャラクターは常に右を向いており、プレイヤーではなくゲームの主人公に語りかけていることを強調している点にも注目されたい。

 さて現在の画面サイズの比率は16:9と、かつてより横にワイドになっている。想像してみよう。普通に画面右からテキストを流し、中央まで到達させたとして……かなりの行数を要し、画面左は必要以上のスペースが空き、不格好になってしまいそうだ。
 そういうわけで今どき縦書きノベルゲームを作るなら、『ふぁみこんむかし話』のように縦長のメッセージウィンドウで見せるか、あるいはゲームの画面そのものをワイドでなくしてしまうかだ。

『アパシー小学校であった怖い話 月曜日』(七転び八転がり、PC、2024年)

『アパシー小学校であった怖い話』シリーズは2024年の作品だが、画面サイズの比率はおおよそ16:11で、一昔前のゲームに近い。お手元の制作ツールが画面サイズを自由に変更できるなら、こうした手段を採用してもいいだろう。
 他に面白い使い方をしているのは『十三機兵防衛圏』だ。

『十三機兵防衛圏』(アトラス、2019年)

『十三機兵防衛圏』のアドベンチャーパートは、すべて横書きの短い台詞で表現される。ところがメッセージ履歴画面では縦書きになるのだ。
 台詞が短いためそのまま横書きにすると、ただでさえワイドな画面にかなり余白が生まれてしまう。それを解消するためのデザインだと思われる。2行の台詞は履歴画面では改行を解除して余白を埋めるという工夫も光っている。

 縦書き形式はノベルゲームの中でもかなりマイナーだが、小説的な雰囲気を強く志向するならば十分に検討の余地があるだろう。多言語展開を見越している場合には悩みどころが増えてしまいそうだが。

© Nintendo
© HAMSTER
© バンプレスト
© 七転び八転がり / 飯島多紀哉
© ATLUS ©SEGA

*1:現在は『夜光虫』を含むすべてのアテナ作品の権利をハムスターが取得している。
https://dengekionline.com/articles/202373/