ノベルゲームの第一要素がテキスト――キャラクターの台詞や地の文の表示であることに異論を挟む人はいないだろう。
しかしそのテキストを作品の中心から外して成り立たせる作り方もある。すなわちグラフィックとボイスを主役にするのだ。90年代の前半から、数こそ少ないものの印象的な作品が生まれている。
『ゆみみみっくす』はインタラクティブコミックというジャンルを標榜した。漫画家の竹本泉氏が全面的に参画し、キャラクターボイスと共に豊富な原画と動画を実装。テレビアニメ的な作風を志向したのだ。ストーリー進行中は主人公「ゆみみ」の台詞も含め、選択肢以外のテキストが表示されることはない。
「みるドラマから、やるドラマへ」――そんなキャッチコピーと共に送り出されたのが『やるドラ』シリーズ。全編を有名アニメプロダクションが手がけており、その第1作『ダブルキャスト』は大きな反響を呼んだ。選択肢とボイスのない主人公の台詞はテキスト表示されるが、それ以外のキャラクターの台詞はデフォルトではテキスト表示されない。設定で表示されるようにもできるのだが、可能なかぎりボイスで楽しんでほしいというのが開発者たちの考えだろう。
『3年B組金八先生 伝説の教壇に立て!』は同名の人気学園ドラマを原作にした作品。会話パートはキャラクターボイスとグラフィックのみで進行し、実写ではないことを除けばかなり原作ドラマに近づけた作りだ。こちらはテキスト同時表示の設定はできないが、ポーズをかけるとメッセージ履歴という形で読み返せるようになっている。
最後に紹介するのは、テキストどころかグラフィックさえも排除した、完全にボイスのみのゲームだ。夭折の天才クリエイター・飯野賢治氏が全盛期に手がけた『リアルサウンド 風のリグレット』である。
ゲーム中の画面を載せようとしてもこのようになる(ドリームキャスト移植版は設定で風景イメージの表示が可能)。言わばラジオドラマに選択肢が付加されたもので、選択肢のシーンになるとチャイムで知らせてくれる。そしてコントローラーの方向キーと決定ボタンで選択していく。
2020年代に入ってからアクセシビリティに配慮した作品も増えてきているが*1、これは視覚障害者でもプレイを可能にした、もっとも初期のビデオゲームのひとつだったと考えられる。
ボイスの実装には多大なコストがかかる。そのためにこういった作風をインディーゲームで真似するのは困難を極めるだろう。それでも昨今は同人で音声作品が隆興している。そのノウハウを応用して、画期的なボイスノベルゲームが登場しないだろうかと思う今日この頃だ。
© 竹本泉 / GAME ARTS
© Sony Interactive Entertainment
© Spike Chunsoft
© From Yellow To Orange
*1:国内でも2024年に「一般社団法人日本ゲームアクセシビリティ協会」が設立された。
https://www.gaaj.jp/