発売元:データイースト、ワークジャム、マーベラスインタラクティブ、アークシステムワークス
初出:1987年
国産の代表的ハードボイルドアドベンチャーゲーム。ひとつがPC発の『J.B.ハロルドの事件簿』シリーズであり、もうひとつがコンソール発の『探偵 神宮寺三郎』シリーズだろう。1987年にファミコンディスクシステムで発売された第1作『新宿中央公園殺人事件』から2019年のスマートフォンアプリ『New Order』まで、休眠期間を挟み発売元がたびたび変わりながらも、足かけ30年以上もの長寿シリーズとなっている。
眠らない街・新宿歌舞伎町に事務所を構える私立探偵の神宮寺三郎が、助手の御苑洋子とともに様々な事件を解き明かしていくというのがシリーズ共通のあらすじ。基本的に顔を見せないJ.B.ハロルドと違い、神宮寺はプレイヤー向けに明確なデザインがなされ、常にそのダンディな素顔を披露している。キャラクター原案担当の寺田克也氏は日本を代表するキャラクターデザイナーで、本シリーズの根強い人気のひとつの要因だ。
アドベンチャーゲームとしては比較的オーソドックスな作りだが、独自性も少なからず盛り込んできた。
中でも神宮寺の代名詞となっているのが「タバコ吸う」のコマンドだ。彼がタバコに火を付けて落ち着きながら一服すると、閃きが生じたり、今は何をするべきかのおおまかな考えが示されたりする(示されないこともある)。このコマンドはハードボイルド探偵神宮寺のキャラクターをこの上なく決定づけた。私はタバコをまったく吸わないのだが、この時の神宮寺には惚れ惚れするほどの男らしさがある。同じように考える人は少なくないのではないだろうか。
第4作の『時の過ぎゆくままに…』においては、現在と交互してセピア調のグラフィックを用いた過去パートが進行する。
回想形式は現代のビデオゲームではスタンダードな演出だが、ほんのワンシーンならまだしも一定の長さのパートを回想に当てる手法は、当時はほぼ皆無と言ってよかった。『ジーザス』が土台を作ったアドベンチャーゲームの映画的作劇に、確かな進展が加わった瞬間だったと言えよう。
助手の洋子との関係も、物語全般の本流ではないものの見どころのひとつ。それが初めて本格的に描写された第6作『夢の終わりに』は屈指の人気と評価を得ており、その後のシリーズの中でも重要な位置を占めている。
彼らは明らかにただの探偵事務所所長と助手の関係ではないのだが、決してラブロマンスの間柄にはならない。いつまでもそのままで続きそうな神宮寺と洋子は、アドベンチャーゲーム随一の長寿を誇るこのシリーズの在り方をそのまま象徴するような存在だ。
現在のところ、また数年ばかり音沙汰がなくなっている神宮寺シリーズだが、2027年には40周年を迎える。
ハードボイルド探偵というものがそもそも令和の世に受け入れられるのか――率直に言えばビジネスとして成立するのか――新たな作品を送り出そうとしてもこれが障害として横たわる。しかしそれでも、往年のファンたちが節目での再登場を心待ちにしているだろう。長寿シリーズならではの安心感を求めるゲーマーは、この現代に少なくない。
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