アライコウのノベルゲーム研究所

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『ある夏の日、山荘にて……』レビュー:定番&本格的な閉鎖空間ミステリー

『ある夏の日、山荘にて……』(三谷はるか、PC、2006年)

 

 本記事は2013年9月に公開していたブログ記事の、微調整の上での再掲となる。
 今までプレイしたフリーのミステリーノベルゲームの中でも特に印象深い作品。興味を持たれた方は、ぜひ初回は攻略サイトは見ずに挑戦していただきたい。

 


 

 推理作品の定番といえば「嵐の孤島」「吹雪の山荘」だろう。殺人事件が起きても外部に助けを呼べず、恐怖と向き合いながら自分たちで事件解決しなければならないという筋書きのものだ。『ある夏の日、山荘にて……』もこのタイプで、定番中の定番ミステリーである。そして商業作品に勝るとも劣らない謎解きを備える、フリーのミステリーノベルゲームの中では屈指のクオリティだ。

凄惨な殺人事件が発生

 197X年7月、大学仲間の別荘に遊びに行くことになった主人公。時間は楽しく過ぎていくが、ほどなく殺人事件が発生する。別荘には電話がなく、ちょうどその地域は台風が直撃していて橋が決壊し、助けを呼ぶことはできない。そうして主人公は現場の状況から犯人を推理する……このメインシナリオは、まさに余計なものが一切ない本格的ミステリー。純粋に推理する楽しみが味わえる。難易度はなかなか高めで、推理小説をたくさん読み込んできたという人でも満足いくだろう。

はたして犯人は……?

 キャラクターグラフィックは一切なく(ただし死体のグラフィックはかなり怖い)、ほとんどのキャラクターは個性に乏しいが、例外的に梶浦という男がひときわ異彩を放っている。推理を間違うとこの男から容赦のない指摘が入るのだが、連続すると実に憎らしい。と同時に、そこまで突っ込めるとはお前何モンだと逆に突っ込んでしまう。それにしてもその間違った推理も、最初は筋が通っているように見えるから恐れ入るもので、ここまでミステリーを構築できる作者の巧みさには舌を巻いてしまう。

 また、メインシナリオをクリアするといろいろなおまけシナリオが解放される。主人公視点の文章がずいぶん堅苦しいのがこの作品の特徴なのだが、コメディシナリオになるとその堅苦しさが逆に笑いを誘う。ぶっちゃけると腹の痛みを我慢してトイレを探し求めるという内容なのだが、一連の描写にはやたらと力が入っていてたまらない。破滅エンドの哀愁はまた格別だ。それにしてもこの主人公(どんな主人公かはネタバレになるので詳しくは書けない)にこんなことをさせるとはと、別の意味で驚いてしまった。

 本格推理に飢えている人にはぴったりの作品。多くのエンディングがあり、少なくとも数日は夢中になってプレイできるはずだ。

© 三谷はるか

 


 

 本作の作者サイトはすでに消失しているが、ダウンロードURLはまだ健在だ。現在もプレイ動画がしばしば投稿されるようで、ネット上に残っている評判に基づいた根強い人気と需要が窺える。

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