アライコウのノベルゲーム研究所

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国産ノベル・アドベンチャーゲーム200選 第44回『ROOMMATE 〜井上涼子〜』

『ROOMMATE 〜井上涼子〜』(データム・ポリスター、SS、1997年)

発売元:データム・ポリスター
初出:1997年

 現実時間と連動するビデオゲームは今日では珍しくない。オンラインゲームでキャラクターが朝昼夜と異なる挨拶をする、誕生日を設定していればその日にお祝いしてくれる、などだ。このシステムはコンソールのアドベンチャーゲーム、とりわけ恋愛ものとも非常に相性がよく、『ラブプラス』(コナミデジタルエンタテインメント、DS、2009年)などに採用されている。
 時間連動システムは1990年代後半から様々な形で採り入れられてきたが、アドベンチャーゲームにおける先駆けのひとつが『ROOMMATE 〜井上涼子〜』だ。

主人公の家の居候となる井上涼子

 ある日、唐突に主人公の前に現れた17歳の女の子・井上涼子。父親のニューヨーク転勤に同行するのを拒み、ひとり日本に残ることを許してもらった彼女は、父親の友人宅、すなわち主人公の家を頼ることになったのだ。こうしてルームメイトとなった涼子との生活が始まった……。
 ゲームはセガサターンの内蔵時計を現在時刻に合わせることでリアルタイムに進行する。朝に起動すれば登校前の、夕方以降に起動すれば帰宅後の涼子に会えるという具合だ。涼子は高校生なので基本的に昼間は会えず、まずはそれを念頭に置いてプレイする必要がある。涼子がいない間に起動しても、何もない家の中を歩き回ることしかできない。

季節に応じたフリーイベント

 物語はストーリーイベントとフリーイベントから構成され、時折現れる選択肢から適切なものを選んでいき、慣れない同居生活の中でも健気に振る舞う涼子と、しっかりコミュニケーションを取っていかなければならない。
 フリーイベントの中には季節限定のものがある。春ならば花粉症や桜の話題があるし、バレンタインデーやホワイトデー、クリスマスなど1日限定のイベントもある。普通にプレイしているとこれらはなかなか見られないので、公式ガイドブック等でもセガサターンの内蔵時計を一度は操作してみることが推奨されていた。起動回数を重ねれば特別なイベントが発生したり、毎日コツコツ遊んでくれるプレイヤーへのご褒美も欠かしてはいない。なお、ずっと放っておくと涼子が知らないうちに家を出て行ってしまうというバッドエンドになる。

 起動さえすれば会える。それがビデオゲームのキャラクターだったが、その常識を打ち破ったのが井上涼子と言えるだろう。いつなら会えるのか、プレイヤーは計画的にアクションを起こさなければならない。そのプレイスタイルは実生活に多少なりとも影響を及ぼす。『NOëL NOT DiGITAL』とも部分的に共通しているが、実在の女性のようなキャラクターと過ごす……当時主流の恋愛アドベンチャーゲームとは違うゲームデザインを心がけていたのだ。制作サイドもこれにはきわめて自覚的だったことが窺える。

そもそも、単に女のコを攻略するというんじゃない、小説や映画のようにひとつの物語を楽しめるものにしたかったんですよ。10人とか15人とかの女のコが言い寄ってきて、それを上手く処理して目当てのコとハッピーエンド。そんなの現実にはあるか! って(笑)。確かにゲームのシステムとしては面白いだろうけど、実際は1人の女のコの舵取りだって仲々上手くはいかないものでしょ。


――『ROOMMATE 〜井上涼子〜 公式ガイドブック』P35

 中心スタッフだったライターの小峯徳司氏はこう語り、「パラメータ化されたような女のコは作りたくなかった」とも言う。エンディングの形もかなり独特なのだが、この確固たる理念がもたらしたものだったのだ。

 本作が一定の評価を得たことで、『ROOMMATE 〜涼子 in Summer Vacation〜』(1997年)、『ROOMMATE3〜涼子 風の輝く朝に〜』(1998年)と、井上涼子三部作が制作された。その後もいくつか『ルームメイト』シリーズが作られ、データム・ポリスターを代表する恋愛アドベンチャーゲームとなった。
 また、ドリームキャストで『井上涼子 ~ルームメイト~』(2001年)というタイトルでリメイクもされている。こちらは時間連動システムを廃した通常の恋愛アドベンチャーゲームになっており、ぶつ切りにならない分ストーリーの完成度が向上している。とはいえ元のセガサターン版の魅力もなんら損なわれるものではないだろう。

【参考文献】
『ROOMMATE 〜井上涼子〜 公式ガイドブック』(メディアワークス、1997年)