
本記事は2013年9月に公開していたブログ記事の、微調整の上での再掲となる。
これを初プレイした時の強烈な印象は忘れられない。
実は海外の著名ノベルゲームクリエイターも影響を受けたという。
ノベルゲームにおいてスタイリッシュという概念が存在するとは、この『Collage』というフリーゲームをプレイするまで知らなかった。こんな見せ方があるのか、と誰もがタイトル画面から驚かされるだろう。
上司の横領を暴いて会社を退職した佐々木由子、毎日を流されるがままに過ごす吉村祐市、同僚に恋焦がれるOLの西野ミキ、この3人の視点が交錯する大人向けの現代ストーリー。過去に数多の恋愛小説家が書いてきたような内容だが、作者は驚くべきセンスで、そんなありきたりな枠にはめ込むことを拒否した。

キャラクターグラフィックは皆無で、背景は実写。これだけだと相当地味になってしまいかねない。
しかし独特なインターフェイス、フリー素材ながら都会の喧噪を巧みに表現したBGM、そのBGMの再生に同期して表示されるスペクトラムアナライザ、クロスフェードを一切使わないスピーディーな画面切り替え……他のゲームとは何もかも一線を画すカッコよさは、初プレイ時に強烈な印象として残った。
その斬新性は年月を経ても、いささかも色褪せてはいなかった。そして改めてじっくりストーリーを追っていくと……無駄を極力排除した台詞。句点を排除した、乾いた人生を描写する地の文。これらが実に味わい深いと気付いた。リリース当時、私は大学生の若造だったが、歳を重ねていればいるほど、この作品の良さがわかるということなのかもしれない。
まさにコラージュというタイトルにふさわしい、どこにでもありそうな現代のワンシーンがスタイリッシュに切り貼りされた短編。一昔前の作品と侮るなかれ、真似しようとしても決してできないセンスに圧倒されるだろう。
© Homegorosi PROJECT
ひとつ興味深いエピソードがある。有名な海外産ノベルゲーム『Analogue: A Hate Story』の作者であるChristine Love氏は、本作に多大な影響を受けたという。さほど有名ではないはずの日本のフリーゲームが海外のクリエイターに影響を与えたというのは、インディーゲームの世界の面白さだ。
本作も昔のフリーゲームのご多分に漏れず、だいぶ前に作者サイトが消失し公式ダウンロードは不可能となっている。
しかし使用されたエンジン吉里吉里/KAGの解説書『吉里吉里/KAGではじめるゲーム制作』のサンプルゲームとして収録されている。特にレアな書籍ではないので、興味のある方はこれを入手してみてはどうだろうか。